ノーベル賞発表の季節になると村上春樹氏が、有力候補に挙げられて久しいが、僕が子供のころは、井上靖氏が毎度候補に挙げられていた。また、学校からの推薦で映画「天平の甍」(井上靖原作)を観て感動した記憶がある。井上靖は1907年(明治40年)生まれ で1991年に亡くなっている。逝去されたときこれでノーベル賞は取れなくなったと残念に思ったものだ。
井上靖氏の自叙伝である「しろばんば」は小学校の頃そのタイトルを知っていたが、怖い話に出てくる「やまんば」を連想させて子供心に怖い感情を抱き続けていた。そして、怖さ故心に残り、気になるものの読んではいなかったものだ。
『伊豆の湯ヶ島の山村で、おぬい婆さんと二人で暮らす洪作少年の日々。豊かな自然と複雑な人間関係の中で洪作少年の心は育っていきます』
大正時代の田舎の地域社会や人間関係、子供の世界の話が語られているが、僕も田舎で育ち、特に父の実家はさらに田舎の農村で百姓をしているので、父の子供の頃の話を思い出しながら読み進んだ。
今からでは遠い昔の話であろうが僕には今なお近い感覚もあっていろいろ共感させられた。僕も長らく東京に住み仕事をしているが、戻れない子供のころの田舎の記憶は愛おしく思える。