あるところに越してきた雪子が精神を病んでいた話で、原因がだんだん明らかになってくる。許婚がありながら他者と相思相愛になり、恋愛相手が死亡したというもの。あまり、面白くなく、前回の「ゆき雲」の方がずっとよく思えるほど。
どうやら樋口一葉氏の作品の中で「うつせみ」は酷評されているのだとか。酷評されていれば、私はかえってどこかいいところを見つけたいと思い、書かれた背景を思った。樋口一葉氏の隣人をヒントに書いたという考察がされていた。また、奇跡の14か月の間に書かれた作品であるので、自分の命の短さを予感しており、書きたい「ネタ」をちりばめたのではないだろうか? 考えてみれば、樋口一葉の主人公になる女性は、貧乏や不自由な恋愛という現実に耐え忍ぶものが多い。それからすれば、経済的に恵まれ、自由恋愛に身を投じたという珍しい主人公でもある。結果は悲劇的で救われないものである。こういう結末まで、雪子は理解していたとまでは思えないが、悲劇となっても恋愛を通した女性を樋口一葉氏は描いてみたかったのではないかと思った。
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