第82夜「小泉八雲集」上田和夫訳

NHKの朝の連ドラは見ていないのだが「ばけばけ」の登場人物小泉八雲氏に興味を持って読んでみた。彼が独自に収集した物語もあるのだろうが、意外に今昔物語等からの話が多いのに気づいた。短篇なので読みやすい。そしていくつか気づきがあった。いわゆる「のっぺらぼう」はそういう妖怪がいるのではなくタイトルが「むじな」とあるので、いわゆる狸等のいたずらと言えるのだろう。また、雪女を最後まで読むと記憶している話からさらに後日談があって興味深い。牡丹燈籠は中国からの話らしいが、日本で焼き直されて具体的な実在する地名や寺の名前が出て身近に感じた。また、小泉八雲氏オリジナルの文章に「日本人の微笑」があるが、外国人にとって理解が難しいことを日本人でも説明が困難なのにうまく説明がなされて共感できた。日本にこういう人物がいてくれたことをありがたく思う。★★★★★

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第81夜「R62号の発明 鉛の卵」安部公房

解説が興味深かった。安部公房氏の作品は共産主義の影響が強く「動物・植物・鉱物を人間と同列に置くこと」「観念あるいは精神には物質あるいは肉体を対置する」「現在に対して未来を対置する」特徴があるという。風変わりな作品はこんなところから出ていたのかと感心した。そして、発想としてはいいし、もちろん面白いのだが、多くは読みたくないと感じた原因もこの3つにあったんだと思った。

東京大学医学部に入学していて医者にはならずに作家になったあたり、本当に頭のいい人は見てる世界が違うんだなと感じた。

★★★★

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第80夜「おいしいごはんが食べられますように」高瀬隼子

よくある会社での話。ちいさな事業所ではその事業所にだけ通じる暗黙のルールがある。弱者は守られるべきもので、その分を他の人がカバーしていっているというのはどこでもあるもの。そして意外にも弱者ぶっている方が人生うまく生きていける。それに対して問題提起した本書は、こういうことを書く作家がいるんだとも感心した。最近の作家は、生きづらさばかり書いてくるものと思っていたから新鮮だった。非常に読みやすかった。

★★★

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第79夜「竹沢先生という人」長与善郎

絶版で読めないのであろうか、しかたなく中古で出ていたのを購入して読む。先生と弟子の本はいくつかあるが、先生の寂しさや末路にもコメントするのは少ないと思う。これはフィクションであるが、実話のように感じて来る。長年名前だけ知っていた小説であったが、どういう作品かわかったよかった。長年のもやもやがなくなった。

★★★

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第78夜「久米正雄作品集」久米正雄

高校の時、現代文学史のテキストに出てきていた久米正雄の「牛乳屋の兄弟」タイトルだけ覚えていたが、最近過去のそういった記憶の回収作業をしているところから、amazonでいろいろ検索してみたが、なんと絶版で手に入らない。40年前まではテキストの黒字になるようなものがと驚いたが仕方ない。

いろいろ探していると「受験生の手記」が久米正雄氏の代表作らしい。それで、久米正雄作品集を買ってみた。読んで初めて大正時代を代表する人で芥川龍之介、菊池寛らと交流深く、漱石の娘に振られて、文学仲間の親友に取られてしまい、それを「破船」で心境を綴ったというのを知った。また、大正12年の震災時の話も興味深かった。このころの東大生は今の時代以上に人生を謳歌していたのがわかるしその中でも久米正雄は社交界で目立った人物であったというのも知った。そうした人生を鳥渡うらやましく思う。

父の死 手品師 競漕 流行火事 受験生の手記 金魚 桟道  他随筆 短歌

★★★

 

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第77夜「重右衛門の最後」田山花袋

明治時代の山村における村社会の閉鎖空間の話。モデルがあったというが、そういうことはあっただろうと思う。また2ちゃんねるで子供の頃にあった不思議な話で、今になって殺人事件を村全体で隠ぺいしていたことが発覚したことが書かれてあった。自分の子供の頃、昭和40年代でも、町の有力者の理不尽なゆがみがあった。そして、今でもこの日本で行われている。一見なくなっているように見えても巧妙に巨大化している気もしないでもない。

★★★

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第76夜「蒲団」田山花袋

先の「田舎教師」と「蒲団」という字面だけで勝手にのほほんとしたストレスなく読める小説だと長らく勘違いしていた。「蒲団」は布団と書かずに「蒲公英(タンポポ)」と似ているものだから脳内でそう思っても無理のないこと。

「蒲団」の男女の悩みや明治の女性の社会的な立ち位置もうかがわれて興味深い。紀の川でも女性の社会的位置づけの変遷を感じたが、そのまま今の時代にも続いていると思うが、行き過ぎるのは悲劇しかないと感じる。これが自然主義文学で私小説への流れと思うと興味深かった。

★★★★

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第75夜「田舎教師」田山花袋

田山花袋の写真での風貌、彼の作品の「田舎教師」や「蒲団」のタイトルからから勝手に田舎のホンワカしつつの温かい物語だろうと高校の頃から思っていた。ところが、それは全くの思い違いだった。立身出世をいろいろ検討しているが結局成果がでず、考えを変えて親孝行と友人を大切に生きていこうという矢先、肺病で死んでしまう青年の話。淡々と物語が進んでいく。盛り上がりもなくただ田舎の描写が心に残る。どんな作品か知っただけで価値がある。

一人の人生のスケッチ。★★★

 

 

 

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第74夜「紀の川」有吉佐和子

前から気になっていた「紀の川」を読んだ。時代の流れを紀の川を通じて感じる。どうしても時代の流れを感じる小説は悲しいものが多い。明治大正昭和でだいぶ日本国内の権力構造は変わったが、実は続きの平成令和でももっともっと変化してきたものである。有吉佐和子が存命なら続きはどうなったか?

私の祖母は大正生まれだが、私の子供は令和世代である。それだけでも大正昭和平成令和と流れてきているのである。それぞれの時代背景の中でしか私たちは生きていけないのであり、昔を語っていては後れを取ってしまうのは必定。だけどどうしてだろう、昭和が無性に懐かしくてたまらなかったりするのである。変化の激しい時代。いいときは長くは続かないものである。それだけは間違いない。そして、老後がいろんな意味で豊かであれば全て吉だと思える。

★★★★★

 

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第73夜「青い壺」有吉佐和子

いろんなところで宣伝している「青い壺」をまんまとマーケティングに乗せられて購入。マーケティングに乗せられても、有吉佐和子氏の作品だったので浮ついて雰囲気で購入したものではない。個人的に有吉佐和子氏は、文豪だと認識している。といっても文学史の中で「紀の川」の名を知っているだけだったのでどういう文体かも含めて未知であった。

青い壺をめぐる短篇13話からなっており、1話1話が読み応えある。こういう作品構成は以前テレビドラマで見た記憶があるが、元をたどれば彼女の話が先かもしれない。いずれにしても昭和最後の方の少ない文豪の一人だと個人的には思う。

★★★★

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第72夜「空中ブランコ」奥田英朗

家にあった本を読んだ。ずいぶん前に読んだのだろう。読みだしておぼろに思いだした程度であったので、初めて読んだに等しい。精神を病んだ著名人と天真爛漫で風変わりな精神科医との面白いからみで進行していく。「空中ブランコ」「ハリネズミ」「義父のヅラ」「ホットコーナー」「女流作家」の5作品が収目られているがいずれも同程度に面白い。そして、皆精神状態が改善していくという読書にとっても精神衛生上よい作品となっているといえる。作家の奥田英朗氏のほかの作品も読んでみたいと感じた。

★★★★

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第71夜「蘭学事始」杉田玄白

菊池寛の「蘭学事始」から杉田玄白の「蘭学事始」を読むことにした。いろいろ発見があった。杉田玄白氏の初めての刊行本が「解体新書」であり「蘭学事始」は最晩年の83才での稿であること。明治2年に刊行されるに至っては福沢諭吉の力添えがあったということ。「ターヘルアナトミア」の翻訳から始まった蘭学の流れを50年たった後で振り返り歴史的事実を後年に残したいというものであったこと。

すでに学校教育で習っていたことは、恐らくこの本からのエピソードであろう。原文や解説が載っており現代訳のところは80ページ程ですぐ読んでしまうが読みごたえはあった。この本では、杉田玄白、前野良沢、中川淳庵の3人が中心で解体新書を訳したようなことを書いてあったが、現在中川淳庵の名は聞かない。世の中そんなものだろう。

この文庫は講談社学術文庫で本体価格1100円もする。価格は高いが、こういう社会的に意義のあるものを残してくれて現代でも読めるようにしていることをありがたく思うとともに日本の学術研究は大したものだと関心もした。

★★★★★

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第70夜「俊寛」菊池寛

この作品を読むまで俊寛のことはあまり知らなかった。菊池寛氏は、倉田百三の戯曲「俊寛」が執筆の契機となったいうが、この作品に触発されて芥川龍之介も「俊寛」を書いているという。その連鎖が興味深い。確かに、3人流刑となり、2人だけ帰還したとしたらそこに何らかのドラマが生まれるだろう。逆境と言えばこれほどの逆境はない。その中でいかに生きるかということか。逆境をそれほど知らないわが身からは想像もできない。

★★

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第69夜「入れ札」菊池寛

「現代小説選集」の収録作家選考過程で思いついた作品という。菊池寛氏は自分の経験を歴史上の話に置き換えなぞらえて、心の葛藤を描くのがうまい。古文漢文の文章力があるのでできる業と言える。内容よりそのことの方が心に残った。

★★

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第68夜「蘭学事始」菊池寛

杉田玄白を主人公に学問と前野良沢との心の葛藤を中心に描かれている。始めは他の作品の様に元ネタに着想を得て菊池寛氏らしい物語を作ったのかと思っていたが、読んでいると史実に基づいた話を分かりやすくリライトしたものかもと思いだした。もし、そうであるなら、「解体新書」「蘭学事始」はきっと読み応えある本ではないかと考え、杉田玄白の著作を読みたくなった。

★★★★

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第67夜「形」菊池寛

中学の頃、国語の先生が生徒にコピーを配っていた。ほぼほぼ覚えていたので、心に残ってその後の人生に少しは影響を及ぼさせたのかもしれない。そして記憶よりかなり短い話だった。この話は、中学時代に出会えていい話だと恩師には感謝している。

★★★★★

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第66夜「極楽」菊池寛

文章を味わうより皮肉な極楽の妙を感じる作品だろう。はじめ、菊池寛氏の死生観における死後に極楽浄土へと向かう道のりを記したものかと思って読み進んだが、退屈な極楽の世界で終わってしまった。星新一氏のショートショートで語られる作品でもいいだろう。ところで、極楽の世界が退屈であるとしたら、よく言われる話。神は退屈なため、この世を作ったいうのに同意できる。輪廻転生を刑務所の様にとらえることもできるが、むしろ輪廻転生があった方が愉しいとも思える。

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第65夜「ある恋の話」菊池寛

菊池寛氏のほかの作品もそうだが数ページ読んだだけで作品に没頭しまう。没入感がすごい。読んでしまえば、そんな話だよねって感じだがしみじみと入ってくるものがあるから不思議。そして最後まで役者と関係を持たなかったところが菊池寛らしいと思った。

★★★

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第64夜「藤十郎の恋」菊池寛

「藤十郎の恋」は内容が面白いというより、もともとあった話に、菊池寛氏の憤りや思いから元の話を変えて自分の意にする話に生まれ変わらせているところに感銘を受ける。結果、人間的、悲劇的な話ともなる。しかし、逆も真で、不遇の者を筆の力で生き生きと幸せな人生に書き換え、違う世界線を作ってあげることも可能だろう。そういう筆力を持ち合わせている作者がうらやましい。

★★★★★

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第63夜「恩讐の彼方に」菊池寛

40年以上も前の話。もうほとんど忘れてしまっているのだがフランキー堺が菊池寛の役として出演していた映画を深夜テレビで見たことがある。面白おかしく描かれた作品で僕の中では、読みもしないで作家としての菊池寛の評価はそれほど高いものではなかった。中学の国語の先生が菊池寛の話をされ、彼の功績を黒板に列挙されていて作家というより企業家のイメージが強かったせいもあると思う。ところで、ここ1,2年で「恩を返す話」「忠直卿行状記」と読んで、作家としての偉大さを知った。そしてこの作品は菊池寛の代表作の一つでありタイトルだけ知っていただけに期待して読んだ。テンポよく話が展開し、終わりには思わず涙ぐんでしまう。ああやっぱり菊池寛って偉大だわと思わせる作品。★★★★★

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