第51夜「次郎物語第三部」下村湖人

第3部は朝倉先生の白鳥会の話と、家業である酒屋の廃業から養鶏場の再スタートの話である。悶々と悩む話は好きでないのだが、そこまでディープなものでなく思いのほか快調に読み終えた。中学時代でも感じていたが、朝倉先生の理想主義があまりにも理想とするところが高すぎてついていけない。読み返しても、立派な先生ではあるが、社会的には如何なものかと思ってしまう。それは人生の半分以上生きた今でも同じである。きれいごとすぎるんだよなと思う。

第4部は、いよいよ恋愛ものになるのだと思うが、うじうじとした展開にならなければいいと思う次第である。

★★★★

 

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第50夜「次郎物語第二部」下村湖人

第2部は、母の死から中学に入学して朝倉先生に出合い次郎が変化してきたところまで。第一部は親向けの教育書として書かれたらしい。第2部の朝倉先生のモデルは下村湖人氏そのものということである。朝倉先生との出会いで変貌する次郎は、作家の青年の理想像であろうと思う。私も恩師から、学校に進学したら3つの出会いを果たすようにと言われたことを思い出した。「学問との出会い」「良き友人との出会い」「良き師」との出会い。2部の後半は、いかにもそれが強く出すぎていて、ちょっと抵抗も感じた。3部以降あまり、押しつけ感が強くなれば嫌だなあと感じる。それでも十分楽しめる。

中学の頃読んだが旧制中学の位置づけがわからず読み方も浅かったかもしれないと思う。

★★★★

 

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第49夜「次郎物語第一部」下村湖人

「路傍の石」を読んでいたら、「次郎物語」が読みたくなった。これらは教養小説とよばれていることを初めて知った。教養小説とは、主人公がさまざまな体験を通して内面的に成長していく過程を描く小説のことをいうらしい。これら2冊はその代表作品のよう。1部から5部まで分かれているが、今回は新潮文庫を選び上中下巻の3冊を読むことに。

第一部は、出生から母の死まで。中学の頃読んではいたが、すっかり忘れ去られていた。里子に出された次郎を取り巻く複雑な人間関係は、田舎の親戚の多い家では結構理解できる話ではないだろうか、私の場合は、父の実家を思い出しつつ読み進んだ。自分の小さい頃の思い出などとうの昔に忘れ去られているものだが、読んでいるといろいろ思い出してくるところがあり。面白い。

中学時代に読んでいてよかったと思う。私の記憶では2度読んだつもりであったが、ひょっとすると1回だけかもしれない。中学の時は河出書房グリーン版日本文学全集で読んだ。けっこう読みごたえがあったのを覚えている。

★★★★★

 

 

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第48夜「路傍の石」山本有三

中学受験の国語の問題に吾一少年が出てきて、塾の先生が路傍の石の話をした記憶がある。そんなに頻繁に出てきたものではなくて多分路傍の石の吾一少年の問題に出会ったのは2回程度だと思うが、「路傍の石」「吾一」の言葉が強烈で、なんだか小学生の私にとっては立ちはだかる巨人のように思えて心に残り続けた。

それから40年以上経過した今、読んだわけだが、何をそんなに恐れていたのだろう?朝日新聞の連載ではないか?しかも未完であり、これからの成長が楽しみというところで終わっている。ちょっと拍子抜けもしたが、とにかく読了したことで巨人に勝ったような一人で満足しきっている自分がいる。でも、本音いうともっと早く読んでおけば影におびえることもなかったと思う。そして、不思議なもので、下村湖人の「次郎物語」を久しぶりに読みたくなった。

★★★★★

 

 

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第47夜「ころころろ」畠中恵

「しゃばけ」シリーズの1つ。しゃばけ以外にも何か読んだがあまり覚えていない。手元に読む本がなかったので家にある子供の本を借りて読んだ。「ころころろ」はシリーズの中でも個人的に印象深い。というのもこの本に出てくる日向の生目社というのは、高校の時の3年間同じクラスだった友人が宮崎市の生目神社の跡取りとして神主を務めているからだ。その関係で彼の部屋へよく遊びに行ったものだ。当時はそれほどと思わなかったが、この本にも登場するような由緒正しき立派な神社だと後年知ることになる。

懐かしい思い出とともに味わい深く読んだ。

★★★★

 

 

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第46夜「ドグラ・マグラ」夢野久作

夢野久作氏の作品はそろそろおなか一杯になりそうだったが、やはり三大奇書と言われている「ドグラ・マグラ」は読んでおかないと思い上下巻を心して読んだ。読後感としては期待が大きかったせいかそこまではいいと思わないし、読み返すまではないという感じだった。だけど、しばらくしたら読み返したくなるかも。高校のとき読んだ、「押絵の奇蹟」「あやかしの鼓」は、時間をおいて読みたいと思う。

個人的には「一足お先に」の方がよかったな。

★★★

 

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第45夜「メリイクリスマス」太宰治

「西門志織のおはなし千一夜」の放送がクリスマスイブの日にあったので、クリスマスにちなんだ、作品になった。クリスマスと言えば、それっぽい作品はいくつもあるだろうけど太宰治の作品はいわば真逆に当たると思う。モブさんの高校生の頃、太宰治の作品は結構読んでいたから恐らくこの作品も読んでいただろう。でも、ほとんど心にも頭にも残っていなかった。

せっかくの機会だからと読んでみると。クリスマスイブの日にこれはこれでいい作品だと思えるようになった。

戦後すぐの日本人の多くは、きっと多くのトラウマを抱えていたことだろう。今日の個々人が抱えている問題など小さいものだと感じるかもしれない。そういうことを感じた。また、声優の西門詩織さんの声の使い分けや作品を理解した上での演技が秀逸である。メリイクリスマスの動画は敢えて鰻としてみた。

★★★★★

 

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第44夜「一足お先に」夢野久作

久しぶりに面白い作品に出合った。夢野久作氏の作品は全体的に好きなのだが、ぐっと引き付けられた。角川文庫の瓶詰の地獄の中の短編作品の中で一番だろう。

いろいろ考察をしたいところである。ネットで感想をいろいろ探したが他の作品と違って考察はあまり出てこない。単純に交錯した世界観を楽しみにした方がいいということかも。

ちなみに私の解釈は、標本室に行ったところまでは現実で、あとは午前4時ごろ起きて殺人事件の騒がしい状況を寝ぼけていて感じていた。2度寝して自分が犯人ではないかという夢を見て夢の中で副院長に責められる。明け方起きて、現実の殺人事件の様子を聞いた。

それにしてもなぜ院長が出てこなかったのかが気がかりであった。逆に言うと副院長とする必要性があったのか?

★★★★★

 

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第43夜「瓶詰の地獄」夢野久作

夢野久作のビール会社征伐がおもしろくて、夢野久作の作品を改めて読んでみようかと思った。今回は角川文庫の「瓶詰の地獄」を購入。瓶詰の地獄は、以前かつしかFMで「深川芹亜のradioclub.jp」を放送していた時、深川さんがおはなし千一夜として一部朗読したことがあるので、全文を読んでみたいと思っていたので楽しみにしていたものです。

今読んでみると、そこまで真剣に考えなくともと思ったりする。

★★★

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第42夜「黒猫」エドガーアランポー

おはなし千一夜で声優の勝野里奈さんに朗読をしてもらった作品。はじめ黒猫 江戸川乱歩とばかり思っていて、原稿を打ち出して、間違いに気付いた。調べるとエドガーアランポーの代表作とのこと。教養のなさが出てしまった。中高生の課題図書になったりもしているようで、知らないということが恥ずかしくもある。

内容は、ひたすら鬱展開。やっぱり一度読んだらもう2度とは読みたくないようないやーな感じのする作品。それでもエドガーランポ―の代表作と言われるのには納得した。

★★★★

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第41夜『別れが」が愉し』山川方夫

ドラマや映画のワンシーンを日常生活に取り入れることは若いころしばしばしていた。小説の一節をそらんじて、友人がその出典を指摘するなども。ちょっと楽しい知的遊びのようなものだった。それで、私は、本を読んでは使えそうなフレーズを暗記してみたりもしていた。そういうことを思い出した。実は、庄司薫の作品にも同じようなことをしていることが書いてあったと思う。

恐らく、程度の差はあれ、山川方夫氏も同様だったのだろう。そこから話を広げていったのが本作。まあうまく作れていると感じた。

★★★★

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第40夜「ビール会社征伐 夢野久作」

夢野久作作品は、高校の頃2冊文庫本を読んだきりだった。過去におはなし千一夜で短い話を聴いていたが、今回の「ビール会社征伐」もとびきり面白い。

夢野久作氏は九州文学を主宰しておられたが、同じ九州文学と言えば恩師小島直記先生を思い出す。なんだか懐かしい思い出を感じつつ読んだ。

時代的背景から、なんとものんびりして、間の抜けたおはなしで、大好きな作品になった。

声優の西門志織(ピュアリーモンスター)さんの朗読もいい。

★★★★★

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第39夜「夏の葬列 山川方夫」

山川方夫を読みだした。「待っている女」「恐怖の正体」「博士の目」「赤い手帳」「蒐集」と読んでいき、当初思っていた山川方夫のイメージがだいぶ変わった。と、いうのは「夏の葬列」は中学2年3年の国語の教科書に掲載されているということからまじめな作品だけだと思っていたのだ。意外に性的なものも扱っているように思えた。

「夏の葬列」は戦争の影のようなもので、教科書中で鬱展開すると言われている作品でもある。結構厳しいものがあるが、戦争を離れてみても誰しも子供の頃や若いころの忘れたい思い出はたくさんあるのではないか?大人になるってことはそういう嫌な思い出が増えてそれでも生きていかなければならないものだと思ったこともある。

そして又思う。若いがゆえに、今なお心の傷になるのであって、さらに年を重ねるとその感性も鈍くなっていくものである。

★★★★★

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第38夜「十三年 山川方夫」

 

青空文庫より。

ラジクラでおはなし千一夜を始めて、その甲斐があったと思えたのは「山川方夫」を知ったことだ。声優の塙有咲さんが、「歪んだ窓」を朗読してはじめてその存在を知った。気になって、いくつか作品を読んでみた、「夏の葬列」「朝のヨット」「お守り」「トンボの死」を読んだ。ショートショートは星新一氏だけだと思っていたので、読んでみたい作家が出てきて嬉しくなった。そして、塙有咲さんの3回目のおはなし千一夜は「十三年」であった。

彼の作品は戦後が出てくる。出さなくてもいいのに宿命としてあえて出してきているようにも思える。

青空文庫には30作品が並んでいた。山川方夫氏が35才でなくなったと知って、残念な気持ちでいっぱいだ。

十三年 おはなし千一夜

★★★

歪んだ窓

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第37夜「うつせみ 樋口一葉」

あるところに越してきた雪子が精神を病んでいた話で、原因がだんだん明らかになってくる。許婚がありながら他者と相思相愛になり、恋愛相手が死亡したというもの。あまり、面白くなく、前回の「ゆき雲」の方がずっとよく思えるほど。

どうやら樋口一葉氏の作品の中で「うつせみ」は酷評されているのだとか。酷評されていれば、私はかえってどこかいいところを見つけたいと思い、書かれた背景を思った。樋口一葉氏の隣人をヒントに書いたという考察がされていた。また、奇跡の14か月の間に書かれた作品であるので、自分の命の短さを予感しており、書きたい「ネタ」をちりばめたのではないだろうか? 考えてみれば、樋口一葉の主人公になる女性は、貧乏や不自由な恋愛という現実に耐え忍ぶものが多い。それからすれば、経済的に恵まれ、自由恋愛に身を投じたという珍しい主人公でもある。結果は悲劇的で救われないものである。こういう結末まで、雪子は理解していたとまでは思えないが、悲劇となっても恋愛を通した女性を樋口一葉氏は描いてみたかったのではないかと思った。

 

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第36夜「ゆき雲 樋口一葉」

話自体は、単純なもので、私からはだから何?という内容。桂次のひとり相撲的な感じもし、勝手に話して勝手に消えていったというもの。他の作品と比べて軽量級な感じが否めない。桂次とお縫があらかじめ盛り上がっていたら感想は変わったかも。

ところで、解説には、作者と許婚との関係の実話をもとに作られたのでは?とあるので、真偽はわからないが、作者の経験から書いておこうと思ったものか?

★★

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第35夜「おおつごもり 樋口一葉」

おおつごもりの後味の悪さ。単純に考えれば、盗みがばれなくてよかったよかった。日頃の行いがいいので、クリスマスの奇跡ならぬおおつごもりの奇跡が起こった。と考えるかもしれない。しかし、まじめなお峯にとっては、告白をしなければ一生罪悪感にさいなまされることになる、石之助が、分かったうえでお峯をかばうことにしていたとしても、お峯の心は安らかにならないだろう。

読んでいて、坪内逍遥の「細君」で奉公していた娘が身投げしたことを思い出して、そして、樋口一葉氏の作品が毎度暗い結末に終わっていたので、お峯の死を予感していたが、こういう終わり方もあるんだと感心した。

そして、私は石之助がお峯をかばおうとしていた説の方を取っている。私も「後の事しりたや」である。

★★★★★

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第34夜「たけくらべ 樋口一葉」

ガラスの仮面に出てきていて、あらすじはなんとなく覚えていたが、いろいろ思い違いをしていたことに気づいた。子供から大人に変わっていく話は、よくテーマにされがちであるが、「たけくらべ」は一段、悲しいような、寂しいような、どうしようもない気持ちになってしまう。自分が子供から大人になっていく時を思い返してみるが、さすがに、登場人物のようなものではない。

時代時代において現実に直面する私は、無力さを感じるものだ。樋口一葉氏の作品は、私の中で十分消化できないものばかり、それが故気になって心に残るのかもしれない。現実を変える力が少しは今もあると思いたいのだが。

★★★★★

 

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第33夜「にごりえ 樋口一葉」

にごりえは、濁った水。どぶのことで、力が子供の頃お使いのお米を落としたのはどぶの中。子供のカステラを捨てたのもどぶに落ちた。華やかなものの裏側にはにごりえがある。

人の情というのはどうしようもない。ストップウォッチを見るように、すでに始めからこうなるようになっているかのように思われた。構造的貧乏や社会制度など、個人ではどうすることもない世界を感じる。読んでてつらい。

最後があまりにも悲劇すぎる。奇跡の14か月。

★★★★

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第32夜「十三夜 樋口一葉」

第23夜「日本近代短篇小説選 明治篇1」の「わかれ道 樋口一葉」を読んで、そういえば、「たけくらべ」「にごりえ」は読んでたのかしらと思い新潮文庫「にごりえ・たけくらべ」を買った。「にごりえ」だけは、「当世書生気質」の前に読んでいたので、先に「十三夜」を読む。短い話ではあるものの始めから濃厚で読み応えのある話である、後半は一転して切なくとも、日本的で美しい話。十三夜の月に照らされた幻想的で味わい深い。古書を古読せずというが、テーマ自体は今でも通じるような気がする。また、旧暦8月15日の十五夜から約1月後の十三夜も月見の風習があるのを知った。晩秋から冬へ向かう季節の月。そう思うと作品がさらに浮かび上がる。蛇足ながら、最後の別れのシーンは「シュルブールの雨傘」を思い出した。

樋口一葉は貧困であり、結核のため若くして亡くなったのが残念であるが、私のようなものが長生きして、冷房のかかる部屋で、しかも370円でこんな素晴らしい作品を読んでいることに対して、本当に本当に樋口一葉に対して申し訳ない気持ちになる。

★★★★★

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