第38夜「十三年 山川方夫」

 

青空文庫より。

ラジクラでおはなし千一夜を始めて、その甲斐があったと思えたのは「山川方夫」を知ったことだ。声優の塙有咲さんが、「歪んだ窓」を朗読してはじめてその存在を知った。気になって、いくつか作品を読んでみた、「夏の葬列」「朝のヨット」「お守り」「トンボの死」を読んだ。ショートショートは星新一氏だけだと思っていたので、読んでみたい作家が出てきて嬉しくなった。そして、塙有咲さんの3回目のおはなし千一夜は「十三年」であった。

彼の作品は戦後が出てくる。出さなくてもいいのに宿命としてあえて出してきているようにも思える。

青空文庫には30作品が並んでいた。山川方夫氏が35才でなくなったと知って、残念な気持ちでいっぱいだ。

十三年 おはなし千一夜

★★★

歪んだ窓

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第37夜「うつせみ 樋口一葉」

あるところに越してきた雪子が精神を病んでいた話で、原因がだんだん明らかになってくる。許婚がありながら他者と相思相愛になり、恋愛相手が死亡したというもの。あまり、面白くなく、前回の「ゆき雲」の方がずっとよく思えるほど。

どうやら樋口一葉氏の作品の中で「うつせみ」は酷評されているのだとか。酷評されていれば、私はかえってどこかいいところを見つけたいと思い、書かれた背景を思った。樋口一葉氏の隣人をヒントに書いたという考察がされていた。また、奇跡の14か月の間に書かれた作品であるので、自分の命の短さを予感しており、書きたい「ネタ」をちりばめたのではないだろうか? 考えてみれば、樋口一葉の主人公になる女性は、貧乏や不自由な恋愛という現実に耐え忍ぶものが多い。それからすれば、経済的に恵まれ、自由恋愛に身を投じたという珍しい主人公でもある。結果は悲劇的で救われないものである。こういう結末まで、雪子は理解していたとまでは思えないが、悲劇となっても恋愛を通した女性を樋口一葉氏は描いてみたかったのではないかと思った。

 

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第36夜「ゆき雲 樋口一葉」

話自体は、単純なもので、私からはだから何?という内容。桂次のひとり相撲的な感じもし、勝手に話して勝手に消えていったというもの。他の作品と比べて軽量級な感じが否めない。桂次とお縫があらかじめ盛り上がっていたら感想は変わったかも。

ところで、解説には、作者と許婚との関係の実話をもとに作られたのでは?とあるので、真偽はわからないが、作者の経験から書いておこうと思ったものか?

★★

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第35夜「おおつごもり 樋口一葉」

おおつごもりの後味の悪さ。単純に考えれば、盗みがばれなくてよかったよかった。日頃の行いがいいので、クリスマスの奇跡ならぬおおつごもりの奇跡が起こった。と考えるかもしれない。しかし、まじめなお峯にとっては、告白をしなければ一生罪悪感にさいなまされることになる、石之助が、分かったうえでお峯をかばうことにしていたとしても、お峯の心は安らかにならないだろう。

読んでいて、坪内逍遥の「細君」で奉公していた娘が身投げしたことを思い出して、そして、樋口一葉氏の作品が毎度暗い結末に終わっていたので、お峯の死を予感していたが、こういう終わり方もあるんだと感心した。

そして、私は石之助がお峯をかばおうとしていた説の方を取っている。私も「後の事しりたや」である。

★★★★★

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第34夜「たけくらべ 樋口一葉」

ガラスの仮面に出てきていて、あらすじはなんとなく覚えていたが、いろいろ思い違いをしていたことに気づいた。子供から大人に変わっていく話は、よくテーマにされがちであるが、「たけくらべ」は一段、悲しいような、寂しいような、どうしようもない気持ちになってしまう。自分が子供から大人になっていく時を思い返してみるが、さすがに、登場人物のようなものではない。

時代時代において現実に直面する私は、無力さを感じるものだ。樋口一葉氏の作品は、私の中で十分消化できないものばかり、それが故気になって心に残るのかもしれない。現実を変える力が少しは今もあると思いたいのだが。

★★★★★

 

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第33夜「にごりえ 樋口一葉」

にごりえは、濁った水。どぶのことで、力が子供の頃お使いのお米を落としたのはどぶの中。子供のカステラを捨てたのもどぶに落ちた。華やかなものの裏側にはにごりえがある。

人の情というのはどうしようもない。ストップウォッチを見るように、すでに始めからこうなるようになっているかのように思われた。構造的貧乏や社会制度など、個人ではどうすることもない世界を感じる。読んでてつらい。

最後があまりにも悲劇すぎる。奇跡の14か月。

★★★★

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第32夜「十三夜 樋口一葉」

第23夜「日本近代短篇小説選 明治篇1」の「わかれ道 樋口一葉」を読んで、そういえば、「たけくらべ」「にごりえ」は読んでたのかしらと思い新潮文庫「にごりえ・たけくらべ」を買った。「にごりえ」だけは、「当世書生気質」の前に読んでいたので、先に「十三夜」を読む。短い話ではあるものの始めから濃厚で読み応えのある話である、後半は一転して切なくとも、日本的で美しい話。十三夜の月に照らされた幻想的で味わい深い。古書を古読せずというが、テーマ自体は今でも通じるような気がする。また、旧暦8月15日の十五夜から約1月後の十三夜も月見の風習があるのを知った。晩秋から冬へ向かう季節の月。そう思うと作品がさらに浮かび上がる。蛇足ながら、最後の別れのシーンは「シュルブールの雨傘」を思い出した。

樋口一葉は貧困であり、結核のため若くして亡くなったのが残念であるが、私のようなものが長生きして、冷房のかかる部屋で、しかも370円でこんな素晴らしい作品を読んでいることに対して、本当に本当に樋口一葉に対して申し訳ない気持ちになる。

★★★★★

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第31夜「浮雲 二葉亭四迷」

久しぶりに面白い本に出合えた。坪内逍遥からの流れで、小説真髄を体現したとされる「浮雲 二葉亭四迷」を読んだ。この作品はいろんな意味で良い方に裏切られる。学生時代に日本文学史に必ず出てくるものだが、多くの学生は「当世書生気質」や「浮雲」は読まないで、夏目漱石や森鴎外等が必読書に挙げられ読んでいるのだろう。もっと早く読んでおけばよかったかもしれないが、今だからこそ楽しめたことは大きい。東京に出てきて三十余年。舞台として出てくる場所にも住んだこともあり、身近に感じた。ともかく斜め上に笑いたいそんな作品で。激しくお勧めする。

最後のシーンでお勢が、編み物をしているが、お鍋が「ほんとに内海・・・」と言ったのは、希望的観測では、内海さんの為に編んでいると思いたかったが、編み物を奥座敷へ投げ入れているので、お勢の気まぐれの一つだろう。「だめだこりゃー」という気持ちである。

★★★★★

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第30夜「当世書生気質 坪内逍遥」

日本近代短篇小説選明治篇1の「細君 坪内逍遥」を読んで、せっかくなら「小説真髄」と「当世書生気質」を読もうと思って、青山ブックセンターへ。岩波文庫から出ているらしいけど、在庫はなかった。仕方ないのでamazonで注文した。

「小説真髄」は始めの方で断念。「当世書生気質」は面白く明治の時代感が伝わって良かった。自分の学生、塾生時代のことや今の学生に思いを巡らせた。また、野口英世の伝記に出てくる野口英世に改名した当時はやっていた読み物が、本書であることにもびっくりした。野々口精作は、そんなに学業怠り、放蕩していたようには思われず??であったが、ネットで調べたら、坪内逍遥が野口英世に出されている文章があって、やっぱり伝記のミスリードのようなものだと知った。このあたりが知れて嬉しかった。

いろんな意味で久しぶりに読んで非常に良かった作品である。岩波には感謝 ★★★★★

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第29夜「一房の葡萄 有島武郎」

日本近代短編小説選の「小さき者へ 有島武郎」を読んでいたら、ふと「一房の葡萄」が懐かしく思え、改めて読みたいと思った。

「一房の葡萄」「溺れかけた兄妹」「碁石を飲んだ八っちゃん」「僕の防止のお話」「火事とポチ」「小さき者へ」角川春樹文庫で280円はお得であった。

私生活を知ってくるとなんだかなぁと思える。これはこれ、それはそれと割り切らないと作品自身が色眼鏡で見ることになる。

 

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第29夜「山椒魚 井伏鱒二」

日本近代短編小説選で、「鯉 井伏鱒二」を読んだら、「山椒魚」が読みたくなった。山椒魚がデビュー作とは知らなかった。

「朽助のいる谷間」「岬の風景」「へんろう宿」「掛け持ち」「シグレ島叙景」「言葉について」「寒山習得」「夜更けと梅の花」「女人来訪」「屋根の上のサワン」「大空の鷲」

一つ一つの作品が味わい深い。繰り返し読んでもいいと思える。

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第28夜「日本近代短篇小説選 昭和篇3」

「小銃 小島信夫」「驟雨 吉行淳之介」「黒い裾 幸田文」「結婚 庄野潤三」「萩のもんかきや 中野重治」「二世の縁 拾遺 円地文子」「群猿図 花田清輝」「帝国軍隊に於ける学習・序 富士正晴」「夏の葬列 山川方夫」「出発は遂に訪れず 島尾敏雄」「闇の中の黒い馬 埴谷雄高」「無妙記 深沢七郎」「蘭陵王 三島由紀夫」

13作品

全6巻で、86人86作品を読んだ。

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第27夜「日本近代短篇小説選 昭和篇2」

「墓地の春 中里恒子」「焼け跡のイエス 石川淳」「夏の花 原民喜」「桜の森の満開の下 坂口安吾」「顔の中の赤い月 野間宏」「蜆 梅崎春生」「虫のいろいろ 尾崎一雄」「もの喰う女 武田泰淳」「胡桃割り 永井龍男」「水仙 林芙美子」「出征 大岡昇平」「小さな礼拝堂 長谷川四郎」「プルートーのわな 安部公房」

全13作品

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第26夜「日本近代短篇小説選 昭和篇1」

「施療室にて 平林たい子」「鯉 井伏鱒二」「キャラメル工場から 佐多稲子」「死の素描 堀辰雄」「機械 横光利一」「闇の絵巻 梶井基次郎」「ゼーロン 牧野信一」「母たち 小林多喜二」「生物祭 伊藤整」「あにいもうと 室生犀星」「いのちの初夜」「築地河岸 宮本百合子」「虚実 高見順」「家霊 岡本かの子」「待つ 太宰治」「文字禍 中島敦」

全16作品

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第25夜「日本近代短篇小説選 大正篇」

「女作者 田村俊子」「鱧の皮 上司小剣」「子供役者の死 岡本綺堂」「西班牙犬の家 佐藤春夫」「銀次郎の片腕 里見弴」「小さき者へ 有島武郎」「虎 久米正雄」「奉教人の死 芥川龍之介」「屋根裏の法学士 宇野浩二」「猫八 岩野泡鳴」「花火 内田百聞」「入れ札 菊池寛」「葬式の名人 川端康成」「椎の若葉 葛西善蔵」「淫売婦 葉山嘉樹」

16作品。

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第24夜「日本近代短篇小説選 明治篇2」

引き続き明治扁2を読む

「倫敦塔 夏目漱石」「団栗 寺田虎彦」「上下 大塚楠緒子」「塵埃 正宗白鳥」「一兵卒 田山花袋」「二老婆 徳田秋声」「世間師 小栗風葉」「一夜 島崎藤村」「深川の唄 中村星湖」「雪の日 近松秋江」「剃刀 志賀直哉」「薔薇と巫女 小川未明」「山の手の子 水上滝太郎」「秘密 谷崎潤一郎」「澪 長田幹彦」16作品

 

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第23夜「日本近代短篇小説選 明治篇1」

明治から昭和にかけての短編小説を時系列に並べ、その時代を象徴する作品によって近代小説の歴史を振り返ろうということで、全部で6冊ある。

明治扁はともかく読みにくく注釈も多かった。

「細君 坪内逍遥」「くされたまご 嵯峨野屋おむろ」「この子 山田美妙」「舞姫 森鴎外」「拈華微笑 尾崎紅葉」「対髑髏 幸田露伴」「こわれ指輪 清水紫琴」「かくれんぼ 齋藤緑雨」「わかれ道 樋口一葉」「龍たん譚 泉鏡花」「武蔵野 国木田独歩」「雨 広津柳浪」の12作品

 

 

 

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第22夜「富豪刑事 筒井康隆」

筒井康隆氏の本は気にはなりつつも縁がなかったところ、10年ほど前に同氏原作の映画「パプリカ」(今敏監督)を見て感銘を受けた。そしてそのパプリカに登場する夢の世界の入り口になる「Bar radioclub.jp」にあやかった「radioclub.jp」のドメインを取得し、ラジオで声優応援番組を始めた。つまり、筒井康隆氏がいなければ私のラジオ人生もなかったのである。そうしたところテレビやアニメで「富豪刑事」が放送されて、面白かったので原作を読むことにした。

キャデラックを乗廻し、最高の葉巻をくゆらせた富豪刑事こと神戸大助が、迷宮入り寸前の5億円強奪事件を次々と解決してゆく。・・・。(新潮文庫)

原作とドラマの違いを気にしつつ読んだ。ドラマの方がおもしろかった。娯楽として読むにはいいと思う。

 

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第21夜「イエスの生涯 遠藤周作」

遠藤周作氏の「キリストの誕生」が素晴らしかったので、「イエスの生涯」を読むことにした。

『英雄的でもなく、美しくもなく、無力であり、誤解と嘲りなかで死んでいったイエス。裏切られ、見棄てられ、人々の落胆と失望の中、みじめに斃れたイエス。彼はなぜ十字架の上で殺されなければならなかったのか?幼くしてカトリックの洗礼を受け、神なき国・日本の信徒として長年苦しんできた著者が、過去に書かれたあらゆる「イエス伝」をふまえてよみがえらせたイエスの生の真実』(新潮文庫)

期待して読んだせいかあまり良くなかった。というのもこの作品は連載物として書かれたのを基にしているため、何度も同じことが繰り返されて、しまっていた。合わせて出版の順番として、「イエスの生涯」の方「キリストの誕生」より先だったので、「キリストの誕生」で十分だったのかもしれない。

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第20夜「キリストの誕生 遠藤周作」

遠藤周作氏の「沈黙」の朗読を聴いて、同氏のほかの作品を読みたくなった。「沈黙」、「海と毒薬」は学生の頃読んでいた。また狐狸庵先生シリーズが家にあったので数冊読んでいた。遠藤周作氏は、コーヒーのCMでも有名であったがどちらかと言えば親しみある大衆的なイメージがしていた。学校の文学史の話して遠藤周作氏の名前が出てきたとき、教室でどよめきが起こったのを覚えている。

『愛だけを語り、愛だけに生き、十字架上でみじめに死んでいったイエス。だが彼は、死後、弱き弟子たちを信念の使徒に変え、人々から神の子、救い主と呼ばれ始める。なぜか?無力に死んだイエスがキリストとして生き始める足跡を追いかけ、残された人々の心の痕跡をさぐり、人間の魂の深奥のドラマを明らかにする。』(新潮文庫)

これまでイエスの現実的な人物像の話を聞いたことがなかったので、かなり勉強になった。いろんな疑問がほぼ解消されたし、完全に解消されないものでも合理的と思える理由を得ることができた。僕にとっては、ためになる本だった。

カテゴリー: 未分類 | コメントする