第5夜「さくらえび さくらももこ」

中学高校時代、夏になれば「新潮文庫の100冊」が本屋を飾り、必ず何冊かは読んでいた。2023年夏は、青山ブックセンターへ行き、何十年ぶりかに新潮100冊文庫の世界に浸ってみた。そして僕はプレミアという言葉に弱い。フェアにおいてプレミアカバーの本が数冊あり、せっかくならプレミアカバーの本にしようと「さくらえび」「エヌ氏の遊園地」「雪国」「人間失格」の4つを購入した。

さくらももこ氏は、僕とほぼ同世代で、ちびまるこちゃんのアニメで出てくる百恵ちゃんや西城秀樹の話は共感しまくりである。彼女が活躍しているのが励まされる感じがしていたが残念ながら若くして逝去された。彼女のエッセイを読んだことがあったが、とても面白く今回も期待して読んだ。

『「さくらえび」さくらももこ氏が、編集長として、取材・文章・漫画すべてを一人やった2000年記念の奇跡の面白雑誌「富士山」からのエッセイの抜粋。』(新潮文庫)

期待が大きすぎたせいか、以前のような読後感はなかったが、同時代を生きてきたものとして感慨深く読んだ。

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第4夜「あすなろ物語 井上靖」

カセットテープ形式のあすなろ物語の朗読が小学校にあり、なぜか覚えていないが鉄棒をしているシーンの極一部だけ、授業中に聴かされたことがあった。そのことを思い出し井上靖氏のやまんばならぬ「しろばんば」を読んだ勢いで「あすなろ物語」も読もうとなったのである。しろばんばの続きの話のような感覚で読んだ。

『天城山麓の小さな村で祖母とふたり土蔵で暮らしていた鮎太少年が、多感な青年時代を経て新聞記者となり、終戦を迎えるまで。あすは檜になろうと念願しながら、永遠に檜になれないという悲しい説話を背負ったあすなろの木に託して著者自身の詩と真実を描く』

ひとかどの人物として立身出世を夢見る若者の話が出てくるが、自分の若いころを思い出す。そしてもちろんモブさんも檜になれずモブのままである。

 

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第3夜「小島直記伝記文学全集1巻」

「遠い母」「ヨーロッパ旧婚旅行」「花よりワイン」

小島直記先生(1919年 5月1日 – 2008年 9月14日)は僕の恩師である。全集1巻のあとがきを読むと1986年9月とある。僕が小島先生の講座に参加し始めた時期なので、全集の配本とともに、先生に育てていただいたのだと感じている。

第1巻は、「遠い母」「ヨーロッパ旧婚旅行」「花よりワイン」の三作が収められているが、この1巻だけは他の14巻とは異質なものだ。というのも、この3作は、小島先生の自分語りと言える作品で、伝記作家がいわば自分の伝記を書いたともいえる。もちろん当時も読んでいたが、改めて読み直すと、先生の息遣いが感じられて嬉しい。伝記を通じての授業であったが、合間合間に先生の過去の思い出をしっかり聞かせて頂いた。旧制福岡高等学校での話、大学進学時の悩み、海軍での話等々である。また、最近行かれたヨーロッパ旅行での話もたくさん聞いた。そうしたことが、いっぱい詰まっているのがこの1巻である。

読みながら先生のことが懐かしくてたまらない。何度読んでもいいものと感じた。

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第2夜「モモ ミヒャエル・エンデ」

モモは、僕のフレームから外にある存在だった。それは古典とは言えない海外の児童書だったことが大きい。日本文学であれば、大人になって触れる機会はあったろうし、日本の子供向けの話で定番なものは、いつしか記憶に残るものだからだ。当時古典とは言えない海外の子供向けの話は、そのタイミングで出会わなければ、恐らく出会える機会はない。

「モモ」の映画は有名であった。僕も映画のかなり漠然としたイメージはある。だけど本当は一度も観たこともなかった。それで、「モモ」というのは名前だけ知ってはいるが僕からずっと外れた気になる存在だった。

「モモ」を読むにあたって、邪道かもしれないが、まず映画を見た。そして、朗読を聴きながら本を読んだ。『町はずれの円形劇場あとにまよいこんだ不思議な少女モモ。町の人たちはモモに話を聞いてもらうと、幸福な気持ちになるのでした。そこへ「時間どろぼう」の男たちの魔の手が忍び寄ります。』

この本は児童向けだけど、大人がいつ読んでもいい話だった。人生で足を止めてちょっと考える機会になるかも。そして、物事の本質を見誤らないようにしないといけないと改めて思わせられる作品。

僕のイメージどおりの内容で、意外性もなくそのままの期待通りでした。これで、「モモ」も僕のフレーム内に入ってしまいました。

 

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第1夜「しろばんば 井上靖」

ノーベル賞発表の季節になると村上春樹氏が、有力候補に挙げられて久しいが、僕が子供のころは、井上靖氏が毎度候補に挙げられていた。また、学校からの推薦で映画「天平の甍」(井上靖原作)を観て感動した記憶がある。井上靖は1907年(明治40年)生まれ で1991年に亡くなっている。逝去されたときこれでノーベル賞は取れなくなったと残念に思ったものだ。

井上靖氏の自叙伝である「しろばんば」は小学校の頃そのタイトルを知っていたが、怖い話に出てくる「やまんば」を連想させて子供心に怖い感情を抱き続けていた。そして、怖さ故心に残り、気になるものの読んではいなかったものだ。

『伊豆の湯ヶ島の山村で、おぬい婆さんと二人で暮らす洪作少年の日々。豊かな自然と複雑な人間関係の中で洪作少年の心は育っていきます』

大正時代の田舎の地域社会や人間関係、子供の世界の話が語られているが、僕も田舎で育ち、特に父の実家はさらに田舎の農村で百姓をしているので、父の子供の頃の話を思い出しながら読み進んだ。

今からでは遠い昔の話であろうが僕には今なお近い感覚もあっていろいろ共感させられた。僕も長らく東京に住み仕事をしているが、戻れない子供のころの田舎の記憶は愛おしく思える。

 

 

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