第34夜「たけくらべ 樋口一葉」

ガラスの仮面に出てきていて、あらすじはなんとなく覚えていたが、いろいろ思い違いをしていたことに気づいた。子供から大人に変わっていく話は、よくテーマにされがちであるが、「たけくらべ」は一段、悲しいような、寂しいような、どうしようもない気持ちになってしまう。自分が子供から大人になっていく時を思い返してみるが、さすがに、登場人物のようなものではない。

時代時代において現実に直面する私は、無力さを感じるものだ。樋口一葉氏の作品は、私の中で十分消化できないものばかり、それが故気になって心に残るのかもしれない。現実を変える力が少しは今もあると思いたいのだが。

★★★★★

 

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第33夜「にごりえ 樋口一葉」

にごりえは、濁った水。どぶのことで、力が子供の頃お使いのお米を落としたのはどぶの中。子供のカステラを捨てたのもどぶに落ちた。華やかなものの裏側にはにごりえがある。

人の情というのはどうしようもない。ストップウォッチを見るように、すでに始めからこうなるようになっているかのように思われた。構造的貧乏や社会制度など、個人ではどうすることもない世界を感じる。読んでてつらい。

最後があまりにも悲劇すぎる。奇跡の14か月。

★★★★

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第32夜「十三夜 樋口一葉」

第23夜「日本近代短篇小説選 明治篇1」の「わかれ道 樋口一葉」を読んで、そういえば、「たけくらべ」「にごりえ」は読んでたのかしらと思い新潮文庫「にごりえ・たけくらべ」を買った。「にごりえ」だけは、「当世書生気質」の前に読んでいたので、先に「十三夜」を読む。短い話ではあるものの始めから濃厚で読み応えのある話である、後半は一転して切なくとも、日本的で美しい話。十三夜の月に照らされた幻想的で味わい深い。古書を古読せずというが、テーマ自体は今でも通じるような気がする。また、旧暦8月15日の十五夜から約1月後の十三夜も月見の風習があるのを知った。晩秋から冬へ向かう季節の月。そう思うと作品がさらに浮かび上がる。蛇足ながら、最後の別れのシーンは「シュルブールの雨傘」を思い出した。

樋口一葉は貧困であり、結核のため若くして亡くなったのが残念であるが、私のようなものが長生きして、冷房のかかる部屋で、しかも370円でこんな素晴らしい作品を読んでいることに対して、本当に本当に樋口一葉に対して申し訳ない気持ちになる。

★★★★★

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第31夜「浮雲 二葉亭四迷」

久しぶりに面白い本に出合えた。坪内逍遥からの流れで、小説真髄を体現したとされる「浮雲 二葉亭四迷」を読んだ。この作品はいろんな意味で良い方に裏切られる。学生時代に日本文学史に必ず出てくるものだが、多くの学生は「当世書生気質」や「浮雲」は読まないで、夏目漱石や森鴎外等が必読書に挙げられ読んでいるのだろう。もっと早く読んでおけばよかったかもしれないが、今だからこそ楽しめたことは大きい。東京に出てきて三十余年。舞台として出てくる場所にも住んだこともあり、身近に感じた。ともかく斜め上に笑いたいそんな作品で。激しくお勧めする。

最後のシーンでお勢が、編み物をしているが、お鍋が「ほんとに内海・・・」と言ったのは、希望的観測では、内海さんの為に編んでいると思いたかったが、編み物を奥座敷へ投げ入れているので、お勢の気まぐれの一つだろう。「だめだこりゃー」という気持ちである。

★★★★★

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第30夜「当世書生気質 坪内逍遥」

日本近代短篇小説選明治篇1の「細君 坪内逍遥」を読んで、せっかくなら「小説真髄」と「当世書生気質」を読もうと思って、青山ブックセンターへ。岩波文庫から出ているらしいけど、在庫はなかった。仕方ないのでamazonで注文した。

「小説真髄」は始めの方で断念。「当世書生気質」は面白く明治の時代感が伝わって良かった。自分の学生、塾生時代のことや今の学生に思いを巡らせた。また、野口英世の伝記に出てくる野口英世に改名した当時はやっていた読み物が、本書であることにもびっくりした。野々口精作は、そんなに学業怠り、放蕩していたようには思われず??であったが、ネットで調べたら、坪内逍遥が野口英世に出されている文章があって、やっぱり伝記のミスリードのようなものだと知った。このあたりが知れて嬉しかった。

いろんな意味で久しぶりに読んで非常に良かった作品である。岩波には感謝 ★★★★★

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第29夜「一房の葡萄 有島武郎」

日本近代短編小説選の「小さき者へ 有島武郎」を読んでいたら、ふと「一房の葡萄」が懐かしく思え、改めて読みたいと思った。

「一房の葡萄」「溺れかけた兄妹」「碁石を飲んだ八っちゃん」「僕の防止のお話」「火事とポチ」「小さき者へ」角川春樹文庫で280円はお得であった。

私生活を知ってくるとなんだかなぁと思える。これはこれ、それはそれと割り切らないと作品自身が色眼鏡で見ることになる。

 

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第29夜「山椒魚 井伏鱒二」

日本近代短編小説選で、「鯉 井伏鱒二」を読んだら、「山椒魚」が読みたくなった。山椒魚がデビュー作とは知らなかった。

「朽助のいる谷間」「岬の風景」「へんろう宿」「掛け持ち」「シグレ島叙景」「言葉について」「寒山習得」「夜更けと梅の花」「女人来訪」「屋根の上のサワン」「大空の鷲」

一つ一つの作品が味わい深い。繰り返し読んでもいいと思える。

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第28夜「日本近代短篇小説選 昭和篇3」

「小銃 小島信夫」「驟雨 吉行淳之介」「黒い裾 幸田文」「結婚 庄野潤三」「萩のもんかきや 中野重治」「二世の縁 拾遺 円地文子」「群猿図 花田清輝」「帝国軍隊に於ける学習・序 富士正晴」「夏の葬列 山川方夫」「出発は遂に訪れず 島尾敏雄」「闇の中の黒い馬 埴谷雄高」「無妙記 深沢七郎」「蘭陵王 三島由紀夫」

13作品

全6巻で、86人86作品を読んだ。

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第27夜「日本近代短篇小説選 昭和篇2」

「墓地の春 中里恒子」「焼け跡のイエス 石川淳」「夏の花 原民喜」「桜の森の満開の下 坂口安吾」「顔の中の赤い月 野間宏」「蜆 梅崎春生」「虫のいろいろ 尾崎一雄」「もの喰う女 武田泰淳」「胡桃割り 永井龍男」「水仙 林芙美子」「出征 大岡昇平」「小さな礼拝堂 長谷川四郎」「プルートーのわな 安部公房」

全13作品

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第26夜「日本近代短篇小説選 昭和篇1」

「施療室にて 平林たい子」「鯉 井伏鱒二」「キャラメル工場から 佐多稲子」「死の素描 堀辰雄」「機械 横光利一」「闇の絵巻 梶井基次郎」「ゼーロン 牧野信一」「母たち 小林多喜二」「生物祭 伊藤整」「あにいもうと 室生犀星」「いのちの初夜」「築地河岸 宮本百合子」「虚実 高見順」「家霊 岡本かの子」「待つ 太宰治」「文字禍 中島敦」

全16作品

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第25夜「日本近代短篇小説選 大正篇」

「女作者 田村俊子」「鱧の皮 上司小剣」「子供役者の死 岡本綺堂」「西班牙犬の家 佐藤春夫」「銀次郎の片腕 里見弴」「小さき者へ 有島武郎」「虎 久米正雄」「奉教人の死 芥川龍之介」「屋根裏の法学士 宇野浩二」「猫八 岩野泡鳴」「花火 内田百聞」「入れ札 菊池寛」「葬式の名人 川端康成」「椎の若葉 葛西善蔵」「淫売婦 葉山嘉樹」

16作品。

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第24夜「日本近代短篇小説選 明治篇2」

引き続き明治扁2を読む

「倫敦塔 夏目漱石」「団栗 寺田虎彦」「上下 大塚楠緒子」「塵埃 正宗白鳥」「一兵卒 田山花袋」「二老婆 徳田秋声」「世間師 小栗風葉」「一夜 島崎藤村」「深川の唄 中村星湖」「雪の日 近松秋江」「剃刀 志賀直哉」「薔薇と巫女 小川未明」「山の手の子 水上滝太郎」「秘密 谷崎潤一郎」「澪 長田幹彦」16作品

 

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第23夜「日本近代短篇小説選 明治篇1」

明治から昭和にかけての短編小説を時系列に並べ、その時代を象徴する作品によって近代小説の歴史を振り返ろうということで、全部で6冊ある。

明治扁はともかく読みにくく注釈も多かった。

「細君 坪内逍遥」「くされたまご 嵯峨野屋おむろ」「この子 山田美妙」「舞姫 森鴎外」「拈華微笑 尾崎紅葉」「対髑髏 幸田露伴」「こわれ指輪 清水紫琴」「かくれんぼ 齋藤緑雨」「わかれ道 樋口一葉」「龍たん譚 泉鏡花」「武蔵野 国木田独歩」「雨 広津柳浪」の12作品

 

 

 

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第22夜「富豪刑事 筒井康隆」

筒井康隆氏の本は気にはなりつつも縁がなかったところ、10年ほど前に同氏原作の映画「パプリカ」(今敏監督)を見て感銘を受けた。そしてそのパプリカに登場する夢の世界の入り口になる「Bar radioclub.jp」にあやかった「radioclub.jp」のドメインを取得し、ラジオで声優応援番組を始めた。つまり、筒井康隆氏がいなければ私のラジオ人生もなかったのである。そうしたところテレビやアニメで「富豪刑事」が放送されて、面白かったので原作を読むことにした。

キャデラックを乗廻し、最高の葉巻をくゆらせた富豪刑事こと神戸大助が、迷宮入り寸前の5億円強奪事件を次々と解決してゆく。・・・。(新潮文庫)

原作とドラマの違いを気にしつつ読んだ。ドラマの方がおもしろかった。娯楽として読むにはいいと思う。

 

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第21夜「イエスの生涯 遠藤周作」

遠藤周作氏の「キリストの誕生」が素晴らしかったので、「イエスの生涯」を読むことにした。

『英雄的でもなく、美しくもなく、無力であり、誤解と嘲りなかで死んでいったイエス。裏切られ、見棄てられ、人々の落胆と失望の中、みじめに斃れたイエス。彼はなぜ十字架の上で殺されなければならなかったのか?幼くしてカトリックの洗礼を受け、神なき国・日本の信徒として長年苦しんできた著者が、過去に書かれたあらゆる「イエス伝」をふまえてよみがえらせたイエスの生の真実』(新潮文庫)

期待して読んだせいかあまり良くなかった。というのもこの作品は連載物として書かれたのを基にしているため、何度も同じことが繰り返されて、しまっていた。合わせて出版の順番として、「イエスの生涯」の方「キリストの誕生」より先だったので、「キリストの誕生」で十分だったのかもしれない。

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第20夜「キリストの誕生 遠藤周作」

遠藤周作氏の「沈黙」の朗読を聴いて、同氏のほかの作品を読みたくなった。「沈黙」、「海と毒薬」は学生の頃読んでいた。また狐狸庵先生シリーズが家にあったので数冊読んでいた。遠藤周作氏は、コーヒーのCMでも有名であったがどちらかと言えば親しみある大衆的なイメージがしていた。学校の文学史の話して遠藤周作氏の名前が出てきたとき、教室でどよめきが起こったのを覚えている。

『愛だけを語り、愛だけに生き、十字架上でみじめに死んでいったイエス。だが彼は、死後、弱き弟子たちを信念の使徒に変え、人々から神の子、救い主と呼ばれ始める。なぜか?無力に死んだイエスがキリストとして生き始める足跡を追いかけ、残された人々の心の痕跡をさぐり、人間の魂の深奥のドラマを明らかにする。』(新潮文庫)

これまでイエスの現実的な人物像の話を聞いたことがなかったので、かなり勉強になった。いろんな疑問がほぼ解消されたし、完全に解消されないものでも合理的と思える理由を得ることができた。僕にとっては、ためになる本だった。

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第19 夜「女生徒 太宰治」

人間失格に続き女生徒を読む。女生徒は初めてとなる。声優「田中あいみのradioclub.jp」で、あいるー(愛称)が「おはなし千一夜」として選んだ作品に「女生徒」があった。あいるーの朗読は素晴らしいが、中でも「女生徒」は秀逸だ。ラジオの尺の都合上、部分的な朗読だったが、機会があれば、あいるーに全文読んでほしいと思えるほど。それで、女生徒を読んでみることにした。

『「幸福は一夜遅れて来る。幸福は 」女性読者から送られてきた日記をもとに、ある女の子の、多感で透明な心情を綴った作品』(新潮文庫)

太宰の作品の中ではかなり好きな作品だ。いくつか朗読が出ていて聴き比べをしたが、やっぱりアイルーの「女生徒」は別格だと思う。ニコ動のラジクラチャンネルにアップしているので是非聴いてほしい。

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第18夜「思い出トランプ 向田邦子」

脚本を手掛けた寺内貫太郎一家の舞台の近くに住んでいたこともあり、気になる作家だった。向田邦子氏が台湾の飛行機事故で亡くなったニュースをよく覚えている。そして子供の頃、親の買った本があり、読んだ記憶がある。

浮気相手であった部下の結婚式に、妻と出席する男。おきゃんでかわうそのような残忍さで夫を翻弄する人妻。心の内で家族を蔑み続ける、元エリートサラリーマン。やむを得ない事故で子供の指を切ってしまった母親など 日常生活の中で、誰もがひとつやふたつは持っている弱さや、狡さ、後ろめたさを、人間のいとしさとしてとらえた13篇。(新潮文庫)

登場人物が中年後の男性が多く、実はさらに年を取った自分にとっては、複雑な気持ちになる。まー痛いところをついてくるなぁという感じ。味のある作家だと思う。

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第17夜「クララとお日さま カズオ・イシグロ」

村上春樹を慕っていたカズオ・イシグロ氏が先にノーベル賞を受賞したが、その後の第一作ということで、どんな作風なのかと読んでみた。ところで、彼は日本のノーベル賞にカウントするのであろうか?

クララは子供の成長を手助けするAF(人工親友)として開発された人工知能搭載ロボット。店頭から街行く人々や来店する客を観察しながら、自分を買ってくれる人が来ることを待ち続けている。ある日、ジョジ―という病弱な少女の家庭に買い取られ、やがて二人は友情を育んでいくが、一家には大きな秘密があった。愛とは、知性とは、家族とは?根源的な問題に迫る感動作。ノーベル文学賞受賞第1作。(ハヤカワ文庫)

読みやすくて、心に残るストーリーでもう一度読んでもいいくらいだと思う。人工知能搭載ロボットも間違いなくそのうち登場してくるだろう。

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第16夜「一人称単数 村上春樹」

ノーベル文学賞でいつも村上春樹氏を応援しているが、毎回残念な結果になっている。僕にとっては話題性が選考していて熱烈なファンがあるようだけど、作品と僕の波長は合わないみたいだ。今回の本は短編集ということで気軽に読めるだろう。

ビートルズのLPを抱えて高校の廊下を歩いていた少女。同じバイト先だった女性から送られてきた歌集の、今も記憶にあるいくつかの短歌。ひなびた温泉宿で背中を流してくれた、年老いた猿の告白。スーツを身に纏いネクタイを結んだ姿を鏡で映した時の違和感。そこで何が起こり何が起こらなかったのか。驚きと謎を秘めた8扁。(文春文庫)

1年たって手に取るとだいぶ忘れていて、もう一回読んでも楽しめそうに思う。8編の中では品川猿の告白が妙に心に残った。

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