第15夜「正欲 朝井リョウ」

朝井リョウ氏と言えば、『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞し2012年には同作が映画化されている。本を読まない僕でも、タイトルから興味を持って映画を見たことがある。映画はすごく面白かった。「正欲」は稲垣吾郎さんと新垣結衣さんの映画も決まっていた。読む前に少しテンションは上がっていた。

『自分が想像できる多様性だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな。息子が不登校になった検事・啓喜。初めての恋に気づく女子大生・八重子。ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。ある事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり始める。だがその繋がりは、多様性を尊重する時代にとって、ひどく不都合なものだった。』(新潮文庫)

『桐島、部活やめるってよ』くらいののりを期待していたが、テーマが重すぎた。それにしても嫌な時代になってきたし、これからもなりそうなことが心配。政治の責任も重い。映画は見なくていいかな?

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第14夜「持続可能な魂の利用 松田青子」

僕にはタイトルはもちろん、作家にもなじみがない。そしてこの作品で何か受賞しているわけでもなかったが、青山ブックセンターがPOP等で推薦していたので、読んでみた。

『毎日会社に行くたびに思うんです、わあ、なんだ、このおっさん地獄は、って」。会社に追いつめられ、無職になった三十女が、女性アイドルに恋して日本の絶望を粉砕!?新米ママや会社員も連帯し、「地獄」を変える賭けに挑む。』(中公文庫)

約1年前に読んだのだが、こういうたぐいの本は、本屋で推薦されやすいものかなぁと、感じた。女性視点では共感する人もいるだろう。友人からではなく本屋で推薦されるものはもっと吟味が必要だと感じだ。

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第13夜「52ヘルツのクジラたち 町田そのこ」

2021年本屋大賞1位ということで本屋のPOPに推薦されるまま読んでみた。

『52ヘルツのクジラとは、他のクジラが聞き取れない高い周波数で鳴く世界で一頭だけのいクジラ。何も届かない、何も届けられない。そのためこの世で一番孤独だといわれている。自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と母に虐待され「ムシ」と呼ばれる少年。孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、愛の物語が生まれる。』(中公文庫)

児童虐待をテーマにした小説。読んで、心に残る話。面白い方だと思う。2024年に映画化されるそうだが、納得する。

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第12夜「首里の馬 高山羽根子」

沖縄の話で、芥川賞受賞作。なんだか面白そうだと、推薦されるまま読むことにした。

『問読者 それが未名子の仕事だ。沖縄の古びた小さな郷土資料館で資料整理を手伝う傍ら、世界の果ての孤独な業務従事者に向けてオンラインで問題を読み上げる。未名子は、この仕事が好きだった、台風の夜に、迷い込んだ宮古馬。ひとりきりの宇宙ステーション、極地の深海、紛争地のシェルター。孤独な人々の記憶と、この島の記録がクイズを通してつながってゆく。絶賛を浴びた芥川賞受賞作』(新潮文庫)

僕には芥川賞の受賞作品の読み方が出来ていないのだろう。リアリティから離れていると興ざめしてしまうことがある。そこはそういうものと割り切ってその世界観を楽しむべきなんだろうが。読みごたえはあったと思う。

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第11夜「推し燃ゆ 宇佐美りん」

アニメでも「推しの子」がブームである。 「推し」ということばはいつ頃出てきたのか?はじめアイドルに対してだと思うが、対象がどんどん拡大してきている気がする。

僕が担当している番組の「ラジクラ」は、声優アイドルをみんなで応援する番組であるが、そういう意味ではモブさんの「推し」はこれまで出演して頂いた声優さん全員となる。

『「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」。高校生のあかりは、アイドル上野真幸を解釈することに心血を注ぎ、学校も家族もバイトもうまくいかない毎日をなんとか生きている。そんなある日、推しが炎上し。第164回芥川賞受賞のベストセラー、時代を映す永遠の青春文学』河出文庫

ふむふむ最近の芥川賞はこんな感じなんだなと認識した。

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第10夜「少年と犬 馳星周」

新潮100冊文庫のフェアを味わいつつ、青山ブックセンターを歩き回っておすすめの文庫本新刊コーナーを見つける。おすすめ本の順番が出ているので、何を読もうか決まっていない僕は、しばらく素直に推薦されるまま本を読むことにした。現代はどんな本が話題なのか知りたいという気持ちもあった。「少年と犬」「推し、燃ゆ」「52ヘルツのクジラたち」「持続可能な魂の利用」「首里の馬」「一人称単数」「クララとお日さま」「正欲」等である。

「少年と犬」は直木賞受賞作ということだ。

『傷つき悩み、惑う人々に寄り添っていたのは一匹の犬だった。2011年秋、仙台。震災で職を失い、家族のため犯罪に手を染めた男。偶然拾った犬が男の守り神になった。壊れかけた夫婦は、その犬をそれぞれ別の名前で呼んでいた。人と犬の種を超えた深い絆を描く感涙作。163回直木賞受賞』(文春文庫)

感涙作ということで、ネットでは多くの読者が感動を投稿していた。僕はそこまで感動しなかった。つまり、読み方が違ったんだろうと思った。今どんな作品が話題なのかを知ろうとして読んでいたので、感動しようと読み始めた読者とは距離があったのだろう。

そこまで感動しなかったのが寂しい。

 

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第9夜「にんじん ジュール・ルナール」

小学校の頃、母が、「にんじん物語」を買ってきた。子供用に書かれていたが、僕は、にんじんの母親に対して衝撃を受けた。世の中に、自分の子供をいじめる母親がいるとは想像もできなかった。読み進める間も、本当はいい母親で子供の為に敢えて悪い母親を演じている。なんてオチを期待して読んだものだが、そこには救いがなかった。そんな本を母が飼ってきた理由もわからない。

次に何を読もうかと青山ブックセンターを歩いて、懐かしいタイトルに手を伸ばした。そして、子供用でなく原作なら、どこかしら救いがあるかも?と思った。

『にんじん。髪の毛が赤くてそばかすだらけのルピック家の三番目の男の子はみんなからそう呼ばれている。あだ名をつけたのはお母さんだ。お母さんには、にんじんに夜の暗闇のなかをにわとり小屋の扉を閉めに行かせたり。おもらししたおしっこを朝食のスープに混ぜて飲ませたりする。だが、にんじんは母親の意地悪にも負けず成長してゆく。』(新潮文庫)

悲しいことに原作を読んでも救いはなかった。子供の頃は気づかないが、世の中に実は児童虐待はあふれている。信じられなかった母親像が、そこかしこにあることに気づく。悲しい話であるが、それでも今も児童書にするのはどうかしらと思うものである。

 

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第8夜「雪国 川端康成」

学生の頃に読んだが、もう一度読みたくなった。有名な冒頭の出だしと、駒子という名前と火事の話だけ覚えていて、ほかはすっかり忘れてしまっていたからである。

『新緑の山あいの温泉で、島村は駒子という美しい娘に出会う。駒子の肌は陶器のように白く、唇はなめらかで、三味線が上手だった。その年の暮れ、彼女に再び会うために、島村は汽車へと乗り込む。すると同じ車両にいた葉子という娘が気にかかり。葉子と駒子の間には、あるつながりが隠されていたのだ。徹底した状況描写で日本的な「美」を結晶化させた世界的名作。ノーベル文学賞対象作品。』(新潮文庫)

1968年にノーベル賞を受賞したが、話の内容は、僕にとって不快に感じる部分も。今の時代では受け入れられないだろう。この頃もそして今も、日本と言えば「サケ」「ゲイシャ」のままなんだろう。それが日本の美と言えばそういう人も多いだろうが、個人的には悲しく、嫌悪感がある作品。と言いながらも。ちょうど読んだ後だったので、昨年の長岡の花火大会の後に、足を延ばして塩沢紬記念館に行ってきたりした。

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第7夜「人間失格 太宰治」

若者で太宰治のファンは多い。僕の周りでもそうだったのだが、友人の多くは太宰に傾倒しても、それをいつぞや否定してさらに他の文学へ進むのが一般的と僕に指南していた。そして、それは僕も同意していた。だから、「人間失格」は、読んではいたが、通過点という気持ちの方が強かったのかもしれない。

『「恥の多い生涯を送って来ました」。そんな身もふたもない告白から男の手記は始まる。男は自分を偽り、ひとを欺き、取り返しようのない過ちを犯し、「失格」の判定を自らにくだす。でも、男が不在になると、彼を懐かしんで、ある女性は語るのだ。「とても素直で、よく気がきいて 神様みたいないい子でした」と。ひとがひととして、ひとと生きる意味を問う。』(新潮文庫)

改めて読んで、もっと、太宰治氏の作品に向き合って深く考察を加えてもいいのではないか?それに足りうる作家だと思うようになった。

 

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第6夜「エヌ氏の遊園地 星新一」

星新一氏の作品は、ほとんど読んだと思う。学生時代、友人と貸し借りをしていた。 ショートショートのSFで、どれを読んでも似たような感じがしていた。「ボッコちゃん」「おーいでてこい」などは僕の学校ではなかったが教科書にもあったような気がする。手軽に読めて『本を読んでます』的なポーズも取れるのでなんだか得した気分に当時はなっていた。今回は僕が中学生に戻ったくらいの感覚で、「エヌ氏の遊園地」を手に取った。

『卓抜なアイデアと奇想天外なユーモアで、不思議な世界にあなたを招待するショートショート31編』(新潮文庫)

昔読んだ時に感じた面白さがあった。年をとっても人間はそう変わることもなく、同じような感想を持つものだと実感した。でも、星新一氏の作品はたまに読むくらいがいいのかもと思う。

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第5夜「さくらえび さくらももこ」

中学高校時代、夏になれば「新潮文庫の100冊」が本屋を飾り、必ず何冊かは読んでいた。2023年夏は、青山ブックセンターへ行き、何十年ぶりかに新潮100冊文庫の世界に浸ってみた。そして僕はプレミアという言葉に弱い。フェアにおいてプレミアカバーの本が数冊あり、せっかくならプレミアカバーの本にしようと「さくらえび」「エヌ氏の遊園地」「雪国」「人間失格」の4つを購入した。

さくらももこ氏は、僕とほぼ同世代で、ちびまるこちゃんのアニメで出てくる百恵ちゃんや西城秀樹の話は共感しまくりである。彼女が活躍しているのが励まされる感じがしていたが残念ながら若くして逝去された。彼女のエッセイを読んだことがあったが、とても面白く今回も期待して読んだ。

『「さくらえび」さくらももこ氏が、編集長として、取材・文章・漫画すべてを一人やった2000年記念の奇跡の面白雑誌「富士山」からのエッセイの抜粋。』(新潮文庫)

期待が大きすぎたせいか、以前のような読後感はなかったが、同時代を生きてきたものとして感慨深く読んだ。

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第4夜「あすなろ物語 井上靖」

カセットテープ形式のあすなろ物語の朗読が小学校にあり、なぜか覚えていないが鉄棒をしているシーンの極一部だけ、授業中に聴かされたことがあった。そのことを思い出し井上靖氏のやまんばならぬ「しろばんば」を読んだ勢いで「あすなろ物語」も読もうとなったのである。しろばんばの続きの話のような感覚で読んだ。

『天城山麓の小さな村で祖母とふたり土蔵で暮らしていた鮎太少年が、多感な青年時代を経て新聞記者となり、終戦を迎えるまで。あすは檜になろうと念願しながら、永遠に檜になれないという悲しい説話を背負ったあすなろの木に託して著者自身の詩と真実を描く』

ひとかどの人物として立身出世を夢見る若者の話が出てくるが、自分の若いころを思い出す。そしてもちろんモブさんも檜になれずモブのままである。

 

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第3夜「小島直記伝記文学全集1巻」

「遠い母」「ヨーロッパ旧婚旅行」「花よりワイン」

小島直記先生(1919年 5月1日 – 2008年 9月14日)は僕の恩師である。全集1巻のあとがきを読むと1986年9月とある。僕が小島先生の講座に参加し始めた時期なので、全集の配本とともに、先生に育てていただいたのだと感じている。

第1巻は、「遠い母」「ヨーロッパ旧婚旅行」「花よりワイン」の三作が収められているが、この1巻だけは他の14巻とは異質なものだ。というのも、この3作は、小島先生の自分語りと言える作品で、伝記作家がいわば自分の伝記を書いたともいえる。もちろん当時も読んでいたが、改めて読み直すと、先生の息遣いが感じられて嬉しい。伝記を通じての授業であったが、合間合間に先生の過去の思い出をしっかり聞かせて頂いた。旧制福岡高等学校での話、大学進学時の悩み、海軍での話等々である。また、最近行かれたヨーロッパ旅行での話もたくさん聞いた。そうしたことが、いっぱい詰まっているのがこの1巻である。

読みながら先生のことが懐かしくてたまらない。何度読んでもいいものと感じた。

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第2夜「モモ ミヒャエル・エンデ」

モモは、僕のフレームから外にある存在だった。それは古典とは言えない海外の児童書だったことが大きい。日本文学であれば、大人になって触れる機会はあったろうし、日本の子供向けの話で定番なものは、いつしか記憶に残るものだからだ。当時古典とは言えない海外の子供向けの話は、そのタイミングで出会わなければ、恐らく出会える機会はない。

「モモ」の映画は有名であった。僕も映画のかなり漠然としたイメージはある。だけど本当は一度も観たこともなかった。それで、「モモ」というのは名前だけ知ってはいるが僕からずっと外れた気になる存在だった。

「モモ」を読むにあたって、邪道かもしれないが、まず映画を見た。そして、朗読を聴きながら本を読んだ。『町はずれの円形劇場あとにまよいこんだ不思議な少女モモ。町の人たちはモモに話を聞いてもらうと、幸福な気持ちになるのでした。そこへ「時間どろぼう」の男たちの魔の手が忍び寄ります。』

この本は児童向けだけど、大人がいつ読んでもいい話だった。人生で足を止めてちょっと考える機会になるかも。そして、物事の本質を見誤らないようにしないといけないと改めて思わせられる作品。

僕のイメージどおりの内容で、意外性もなくそのままの期待通りでした。これで、「モモ」も僕のフレーム内に入ってしまいました。

 

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第1夜「しろばんば 井上靖」

ノーベル賞発表の季節になると村上春樹氏が、有力候補に挙げられて久しいが、僕が子供のころは、井上靖氏が毎度候補に挙げられていた。また、学校からの推薦で映画「天平の甍」(井上靖原作)を観て感動した記憶がある。井上靖は1907年(明治40年)生まれ で1991年に亡くなっている。逝去されたときこれでノーベル賞は取れなくなったと残念に思ったものだ。

井上靖氏の自叙伝である「しろばんば」は小学校の頃そのタイトルを知っていたが、怖い話に出てくる「やまんば」を連想させて子供心に怖い感情を抱き続けていた。そして、怖さ故心に残り、気になるものの読んではいなかったものだ。

『伊豆の湯ヶ島の山村で、おぬい婆さんと二人で暮らす洪作少年の日々。豊かな自然と複雑な人間関係の中で洪作少年の心は育っていきます』

大正時代の田舎の地域社会や人間関係、子供の世界の話が語られているが、僕も田舎で育ち、特に父の実家はさらに田舎の農村で百姓をしているので、父の子供の頃の話を思い出しながら読み進んだ。

今からでは遠い昔の話であろうが僕には今なお近い感覚もあっていろいろ共感させられた。僕も長らく東京に住み仕事をしているが、戻れない子供のころの田舎の記憶は愛おしく思える。

 

 

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