第77夜「重右衛門の最後」田山花袋

明治時代の山村における村社会の閉鎖空間の話。モデルがあったというが、そういうことはあっただろうと思う。また2ちゃんねるで子供の頃にあった不思議な話で、今になって殺人事件を村全体で隠ぺいしていたことが発覚したことが書かれてあった。自分の子供の頃、昭和40年代でも、町の有力者の理不尽なゆがみがあった。そして、今でもこの日本で行われている。一見なくなっているように見えても巧妙に巨大化している気もしないでもない。

★★★

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第76夜「蒲団」田山花袋

先の「田舎教師」と「蒲団」という字面だけで勝手にのほほんとしたストレスなく読める小説だと長らく勘違いしていた。「蒲団」は布団と書かずに「蒲公英(タンポポ)」と似ているものだから脳内でそう思っても無理のないこと。

「蒲団」の男女の悩みや明治の女性の社会的な立ち位置もうかがわれて興味深い。紀の川でも女性の社会的位置づけの変遷を感じたが、そのまま今の時代にも続いていると思うが、行き過ぎるのは悲劇しかないと感じる。これが自然主義文学で私小説への流れと思うと興味深かった。

★★★★

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第75夜「田舎教師」田山花袋

田山花袋の写真での風貌、彼の作品の「田舎教師」や「蒲団」のタイトルからから勝手に田舎のホンワカしつつの温かい物語だろうと高校の頃から思っていた。ところが、それは全くの思い違いだった。立身出世をいろいろ検討しているが結局成果がでず、考えを変えて親孝行と友人を大切に生きていこうという矢先、肺病で死んでしまう青年の話。淡々と物語が進んでいく。盛り上がりもなくただ田舎の描写が心に残る。どんな作品か知っただけで価値がある。

一人の人生のスケッチ。★★★

 

 

 

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第74夜「紀の川」有吉佐和子

前から気になっていた「紀の川」を読んだ。時代の流れを紀の川を通じて感じる。どうしても時代の流れを感じる小説は悲しいものが多い。明治大正昭和でだいぶ日本国内の権力構造は変わったが、実は続きの平成令和でももっともっと変化してきたものである。有吉佐和子が存命なら続きはどうなったか?

私の祖母は大正生まれだが、私の子供は令和世代である。それだけでも大正昭和平成令和と流れてきているのである。それぞれの時代背景の中でしか私たちは生きていけないのであり、昔を語っていては後れを取ってしまうのは必定。だけどどうしてだろう、昭和が無性に懐かしくてたまらなかったりするのである。変化の激しい時代。いいときは長くは続かないものである。それだけは間違いない。そして、老後がいろんな意味で豊かであれば全て吉だと思える。

★★★★★

 

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第73夜「青い壺」有吉佐和子

いろんなところで宣伝している「青い壺」をまんまとマーケティングに乗せられて購入。マーケティングに乗せられても、有吉佐和子氏の作品だったので浮ついて雰囲気で購入したものではない。個人的に有吉佐和子氏は、文豪だと認識している。といっても文学史の中で「紀の川」の名を知っているだけだったのでどういう文体かも含めて未知であった。

青い壺をめぐる短篇13話からなっており、1話1話が読み応えある。こういう作品構成は以前テレビドラマで見た記憶があるが、元をたどれば彼女の話が先かもしれない。いずれにしても昭和最後の方の少ない文豪の一人だと個人的には思う。

★★★★

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第72夜「空中ブランコ」奥田英朗

家にあった本を読んだ。ずいぶん前に読んだのだろう。読みだしておぼろに思いだした程度であったので、初めて読んだに等しい。精神を病んだ著名人と天真爛漫で風変わりな精神科医との面白いからみで進行していく。「空中ブランコ」「ハリネズミ」「義父のヅラ」「ホットコーナー」「女流作家」の5作品が収目られているがいずれも同程度に面白い。そして、皆精神状態が改善していくという読書にとっても精神衛生上よい作品となっているといえる。作家の奥田英朗氏のほかの作品も読んでみたいと感じた。

★★★★

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第71夜「蘭学事始」杉田玄白

菊池寛の「蘭学事始」から杉田玄白の「蘭学事始」を読むことにした。いろいろ発見があった。杉田玄白氏の初めての刊行本が「解体新書」であり「蘭学事始」は最晩年の83才での稿であること。明治2年に刊行されるに至っては福沢諭吉の力添えがあったということ。「ターヘルアナトミア」の翻訳から始まった蘭学の流れを50年たった後で振り返り歴史的事実を後年に残したいというものであったこと。

すでに学校教育で習っていたことは、恐らくこの本からのエピソードであろう。原文や解説が載っており現代訳のところは80ページ程ですぐ読んでしまうが読みごたえはあった。この本では、杉田玄白、前野良沢、中川淳庵の3人が中心で解体新書を訳したようなことを書いてあったが、現在中川淳庵の名は聞かない。世の中そんなものだろう。

この文庫は講談社学術文庫で本体価格1100円もする。価格は高いが、こういう社会的に意義のあるものを残してくれて現代でも読めるようにしていることをありがたく思うとともに日本の学術研究は大したものだと関心もした。

★★★★★

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第70夜「俊寛」菊池寛

この作品を読むまで俊寛のことはあまり知らなかった。菊池寛氏は、倉田百三の戯曲「俊寛」が執筆の契機となったいうが、この作品に触発されて芥川龍之介も「俊寛」を書いているという。その連鎖が興味深い。確かに、3人流刑となり、2人だけ帰還したとしたらそこに何らかのドラマが生まれるだろう。逆境と言えばこれほどの逆境はない。その中でいかに生きるかということか。逆境をそれほど知らないわが身からは想像もできない。

★★

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第69夜「入れ札」菊池寛

「現代小説選集」の収録作家選考過程で思いついた作品という。菊池寛氏は自分の経験を歴史上の話に置き換えなぞらえて、心の葛藤を描くのがうまい。古文漢文の文章力があるのでできる業と言える。内容よりそのことの方が心に残った。

★★

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第68夜「蘭学事始」菊池寛

杉田玄白を主人公に学問と前野良沢との心の葛藤を中心に描かれている。始めは他の作品の様に元ネタに着想を得て菊池寛氏らしい物語を作ったのかと思っていたが、読んでいると史実に基づいた話を分かりやすくリライトしたものかもと思いだした。もし、そうであるなら、「解体新書」「蘭学事始」はきっと読み応えある本ではないかと考え、杉田玄白の著作を読みたくなった。

★★★★

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第67夜「形」菊池寛

中学の頃、国語の先生が生徒にコピーを配っていた。ほぼほぼ覚えていたので、心に残ってその後の人生に少しは影響を及ぼさせたのかもしれない。そして記憶よりかなり短い話だった。この話は、中学時代に出会えていい話だと恩師には感謝している。

★★★★★

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第66夜「極楽」菊池寛

文章を味わうより皮肉な極楽の妙を感じる作品だろう。はじめ、菊池寛氏の死生観における死後に極楽浄土へと向かう道のりを記したものかと思って読み進んだが、退屈な極楽の世界で終わってしまった。星新一氏のショートショートで語られる作品でもいいだろう。ところで、極楽の世界が退屈であるとしたら、よく言われる話。神は退屈なため、この世を作ったいうのに同意できる。輪廻転生を刑務所の様にとらえることもできるが、むしろ輪廻転生があった方が愉しいとも思える。

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第65夜「ある恋の話」菊池寛

菊池寛氏のほかの作品もそうだが数ページ読んだだけで作品に没頭しまう。没入感がすごい。読んでしまえば、そんな話だよねって感じだがしみじみと入ってくるものがあるから不思議。そして最後まで役者と関係を持たなかったところが菊池寛らしいと思った。

★★★

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第64夜「藤十郎の恋」菊池寛

「藤十郎の恋」は内容が面白いというより、もともとあった話に、菊池寛氏の憤りや思いから元の話を変えて自分の意にする話に生まれ変わらせているところに感銘を受ける。結果、人間的、悲劇的な話ともなる。しかし、逆も真で、不遇の者を筆の力で生き生きと幸せな人生に書き換え、違う世界線を作ってあげることも可能だろう。そういう筆力を持ち合わせている作者がうらやましい。

★★★★★

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第63夜「恩讐の彼方に」菊池寛

40年以上も前の話。もうほとんど忘れてしまっているのだがフランキー堺が菊池寛の役として出演していた映画を深夜テレビで見たことがある。面白おかしく描かれた作品で僕の中では、読みもしないで作家としての菊池寛の評価はそれほど高いものではなかった。中学の国語の先生が菊池寛の話をされ、彼の功績を黒板に列挙されていて作家というより企業家のイメージが強かったせいもあると思う。ところで、ここ1,2年で「恩を返す話」「忠直卿行状記」と読んで、作家としての偉大さを知った。そしてこの作品は菊池寛の代表作の一つでありタイトルだけ知っていただけに期待して読んだ。テンポよく話が展開し、終わりには思わず涙ぐんでしまう。ああやっぱり菊池寛って偉大だわと思わせる作品。★★★★★

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第62夜「忠直卿行状記」菊池寛

菊池寛の作品は、主人公の主観的思いと周りの思い。そして読者としての客観的な視点との相違を感じさせるものが多いと思っている。「忠直卿行状記」においても同様に感じつつ読んでいった。主人公の勘違いが浅はかに続くとばかり思っていたが途中で主人公が思い違いに気づいたことから、不幸な行動に至る結末であった。自己認識の面では非常に勉強になる。

★★★★★

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第61夜「ブンとフン」井上ひさし

過去に読んだ本の解説に「ブンとフン」のようなという文章があり、タイトルだけ知っていて読んでいなかったので今更ながら読んだ。一気に読んでしまわないともったいない本で、展開がおもしろい。深い話ではないけど、言いたいことはわかるし伝わる。中学で読んでもいいし、今読んでもいい。12万冊から生まれた12万人ブン。この発想は、この本に限らず読者一人ひとりに、本の登場人物が語り掛ける。そんなことをふと思った。

★★★★★

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第60夜「黒い雨」井伏鱒二

大学を広島で過ごした私は気にはなっていったが、読むのがつらいだろうと敢えて遠ざけていた作品に「黒い雨」がある。タイトルだけ知って内容は全く知らなかったのだが、今回読んでみて、学生時代を過ごした街や川、橋等々がたくさん出てきていた。悲惨な話を日常で書かれている作品であり、心に残る。そして、学生時代に読んでおけばよかったと後悔するもののやっぱり当時は手に取ることが出なかっただろうとも思う。

★★★★★

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第59夜「どこかの事件」星新一

最後の最後でパイドンは盛り上がったが読むのが苦痛だったので、次に読みたい本が出てこなかった。それで、家に置いてあった星新一氏の作品を箸休め的に再度読み始めた。

各作品ほとんど覚えていないが、読むとなんだか結末を知っているかのような錯覚に陥る。そういえば、星新一氏は1001作品を書いたが、おはなし千一夜も同じようなコンセプトである。なんだか星新一の作品1001作全部楽しく読みたい気がしてきた。早速注文をしてみた。それで、毎日1作ずつ読み始めた。3年かかる予定である。

★★★

 

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第58夜「パイドーン」プラトン

魂の話が続く。古代ギリシャ時代にどのように考えてきたのか勉強になる。現代の量子物理学などをソクラテスが知ったらどのように考えただろうと思う。それより、ソクラテスの最後の言葉を「クリトーンに鶏を借りている」と思っていてなんと律儀な人なんだろうと思っていたら、実は「クリトーン、アストレーピオスに鶏をお供えしなければならない」とあって、医薬の神にささげるものだと知った。これだから面白い。

★★★

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