第71夜「蘭学事始」杉田玄白

菊池寛の「蘭学事始」から杉田玄白の「蘭学事始」を読むことにした。いろいろ発見があった。杉田玄白氏の初めての刊行本が「解体新書」であり「蘭学事始」は最晩年の83才での稿であること。明治2年に刊行されるに至っては福沢諭吉の力添えがあったということ。「ターヘルアナトミア」の翻訳から始まった蘭学の流れを50年たった後で振り返り歴史的事実を後年に残したいというものであったこと。

すでに学校教育で習っていたことは、恐らくこの本からのエピソードであろう。原文や解説が載っており現代訳のところは80ページ程ですぐ読んでしまうが読みごたえはあった。この本では、杉田玄白、前野良沢、中川淳庵の3人が中心で解体新書を訳したようなことを書いてあったが、現在中川淳庵の名は聞かない。世の中そんなものだろう。

この文庫は講談社学術文庫で本体価格1100円もする。価格は高いが、こういう社会的に意義のあるものを残してくれて現代でも読めるようにしていることをありがたく思うとともに日本の学術研究は大したものだと関心もした。

★★★★★

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第70夜「俊寛」菊池寛

この作品を読むまで俊寛のことはあまり知らなかった。菊池寛氏は、倉田百三の戯曲「俊寛」が執筆の契機となったいうが、この作品に触発されて芥川龍之介も「俊寛」を書いているという。その連鎖が興味深い。確かに、3人流刑となり、2人だけ帰還したとしたらそこに何らかのドラマが生まれるだろう。逆境と言えばこれほどの逆境はない。その中でいかに生きるかということか。逆境をそれほど知らないわが身からは想像もできない。

★★

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第69夜「入れ札」菊池寛

「現代小説選集」の収録作家選考過程で思いついた作品という。菊池寛氏は自分の経験を歴史上の話に置き換えなぞらえて、心の葛藤を描くのがうまい。古文漢文の文章力があるのでできる業と言える。内容よりそのことの方が心に残った。

★★

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第68夜「蘭学事始」菊池寛

杉田玄白を主人公に学問と前野良沢との心の葛藤を中心に描かれている。始めは他の作品の様に元ネタに着想を得て菊池寛氏らしい物語を作ったのかと思っていたが、読んでいると史実に基づいた話を分かりやすくリライトしたものかもと思いだした。もし、そうであるなら、「解体新書」「蘭学事始」はきっと読み応えある本ではないかと考え、杉田玄白の著作を読みたくなった。

★★★★

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第67夜「形」菊池寛

中学の頃、国語の先生が生徒にコピーを配っていた。ほぼほぼ覚えていたので、心に残ってその後の人生に少しは影響を及ぼさせたのかもしれない。そして記憶よりかなり短い話だった。この話は、中学時代に出会えていい話だと恩師には感謝している。

★★★★★

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第66夜「極楽」菊池寛

文章を味わうより皮肉な極楽の妙を感じる作品だろう。はじめ、菊池寛氏の死生観における死後に極楽浄土へと向かう道のりを記したものかと思って読み進んだが、退屈な極楽の世界で終わってしまった。星新一氏のショートショートで語られる作品でもいいだろう。ところで、極楽の世界が退屈であるとしたら、よく言われる話。神は退屈なため、この世を作ったいうのに同意できる。輪廻転生を刑務所の様にとらえることもできるが、むしろ輪廻転生があった方が愉しいとも思える。

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第65夜「ある恋の話」菊池寛

菊池寛氏のほかの作品もそうだが数ページ読んだだけで作品に没頭しまう。没入感がすごい。読んでしまえば、そんな話だよねって感じだがしみじみと入ってくるものがあるから不思議。そして最後まで役者と関係を持たなかったところが菊池寛らしいと思った。

★★★

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第64夜「藤十郎の恋」菊池寛

「藤十郎の恋」は内容が面白いというより、もともとあった話に、菊池寛氏の憤りや思いから元の話を変えて自分の意にする話に生まれ変わらせているところに感銘を受ける。結果、人間的、悲劇的な話ともなる。しかし、逆も真で、不遇の者を筆の力で生き生きと幸せな人生に書き換え、違う世界線を作ってあげることも可能だろう。そういう筆力を持ち合わせている作者がうらやましい。

★★★★★

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第63夜「恩讐の彼方に」菊池寛

40年以上も前の話。もうほとんど忘れてしまっているのだがフランキー堺が菊池寛の役として出演していた映画を深夜テレビで見たことがある。面白おかしく描かれた作品で僕の中では、読みもしないで作家としての菊池寛の評価はそれほど高いものではなかった。中学の国語の先生が菊池寛の話をされ、彼の功績を黒板に列挙されていて作家というより企業家のイメージが強かったせいもあると思う。ところで、ここ1,2年で「恩を返す話」「忠直卿行状記」と読んで、作家としての偉大さを知った。そしてこの作品は菊池寛の代表作の一つでありタイトルだけ知っていただけに期待して読んだ。テンポよく話が展開し、終わりには思わず涙ぐんでしまう。ああやっぱり菊池寛って偉大だわと思わせる作品。★★★★★

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第62夜「忠直卿行状記」菊池寛

菊池寛の作品は、主人公の主観的思いと周りの思い。そして読者としての客観的な視点との相違を感じさせるものが多いと思っている。「忠直卿行状記」においても同様に感じつつ読んでいった。主人公の勘違いが浅はかに続くとばかり思っていたが途中で主人公が思い違いに気づいたことから、不幸な行動に至る結末であった。自己認識の面では非常に勉強になる。

★★★★★

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第61夜「ブンとフン」井上ひさし

過去に読んだ本の解説に「ブンとフン」のようなという文章があり、タイトルだけ知っていて読んでいなかったので今更ながら読んだ。一気に読んでしまわないともったいない本で、展開がおもしろい。深い話ではないけど、言いたいことはわかるし伝わる。中学で読んでもいいし、今読んでもいい。12万冊から生まれた12万人ブン。この発想は、この本に限らず読者一人ひとりに、本の登場人物が語り掛ける。そんなことをふと思った。

★★★★★

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第60夜「黒い雨」井伏鱒二

大学を広島で過ごした私は気にはなっていったが、読むのがつらいだろうと敢えて遠ざけていた作品に「黒い雨」がある。タイトルだけ知って内容は全く知らなかったのだが、今回読んでみて、学生時代を過ごした街や川、橋等々がたくさん出てきていた。悲惨な話を日常で書かれている作品であり、心に残る。そして、学生時代に読んでおけばよかったと後悔するもののやっぱり当時は手に取ることが出なかっただろうとも思う。

★★★★★

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第59夜「どこかの事件」星新一

最後の最後でパイドンは盛り上がったが読むのが苦痛だったので、次に読みたい本が出てこなかった。それで、家に置いてあった星新一氏の作品を箸休め的に再度読み始めた。

各作品ほとんど覚えていないが、読むとなんだか結末を知っているかのような錯覚に陥る。そういえば、星新一氏は1001作品を書いたが、おはなし千一夜も同じようなコンセプトである。なんだか星新一の作品1001作全部楽しく読みたい気がしてきた。早速注文をしてみた。それで、毎日1作ずつ読み始めた。3年かかる予定である。

★★★

 

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第58夜「パイドーン」プラトン

魂の話が続く。古代ギリシャ時代にどのように考えてきたのか勉強になる。現代の量子物理学などをソクラテスが知ったらどのように考えただろうと思う。それより、ソクラテスの最後の言葉を「クリトーンに鶏を借りている」と思っていてなんと律儀な人なんだろうと思っていたら、実は「クリトーン、アストレーピオスに鶏をお供えしなければならない」とあって、医薬の神にささげるものだと知った。これだから面白い。

★★★

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第57夜「クリトーン」プラトン

ソクラテスの弁明でも投票の結果死罪となったが、友人クリトーンから脱獄を持ちかけられて、それを自分の論理でもって否定して死刑を受け入れる話。

脱獄を拒否する気持ちはわかるが、実際の世の中では超法規的措置はいっぱいあるし、必ずしも法律が全てではないという気がしている。現代でもそう感じるので古代ギリシャではもっといろんな意味で不備がある気がする。しかし、死を受け入れることでソクラテスがより神話になった。

 

★★

 

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第56夜「ソークラテスの弁明」プラトン

youtubeの本要約チャンネルが勝手に流れていて「ソクラステスの弁明」について語っていた。高校の頃「弁明」は軽く読んでいたが、改めて読みたくなった。

読んでいての感想は、まず、ソクラテスは現代では哲学者扱いだが、実態は宗教家であったのだろうということ。小さいころから神の声が聞こえていたと語っているし、デルフォイの神殿で、一番の知恵者だと言われたという話もそうである。自分を救世主と神の声を聴き宗教の祖となる人は多い。死から逃げずに信念を通して死を受け入れるのも自分の神を信じていたからだろうと思った。

次に1回目の投票で死刑が決まってからの弁明において、お金を支払うと言いだしているということ。個人的には申し訳ないが命乞いの一種にも思え残念に感じた。

再度の投票で死刑が確定した後の演説が思ったより長いこと。現代の裁判で判決が下ったらそれで終わりなのに、死刑が確定した後に語る語る。長すぎだろと思った。

最後に訳者が田中美知太郎先生だったこと。

いろんなことを再認識した次第です。

★★★

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第55夜「不如帰」徳富蘆花

徳富蘆花の「思出の記」を読もうと思ったが絶版であり、しかたないので徳富蘆花の代表作「不如帰」を読むことにした。表紙の絵は黒田清輝とある。明治期に一番のベストセラーと言われているだけのことはあると思う。結核と日清戦争、家制度などが今日ではわかりづらいことはあると思うが、明治期の雰囲気を十分感じることができた。今では離婚なんぞ3組に1組あると言われ、離婚してもバツイチとして市民権を得ているようにも思える。だから浪さんの妻のままで死にたいという気持ちは伝わりづらいだろう。

徳富蘆花は同志社大学にいたが、不自然に感じるようにキリスト教徒の話を挟んできたあたり、その影響があったのではと思う。

★★★

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第54夜「DIE with ZERO」ビルパーキンズ

文学書ではなく実用書。最近この本が話題だったので読んでみた。この手の本は「チーズはどこに行った」でもそうだったが、要約すると1行で終わるようなものを、いろいろ例えながら書いてあるので、私的にはそこまで説得力はなかった。読んでよかったが、そんなに感銘は受けない。「若いうちに金を使って経験をしろ」というのにつきる。高齢期の人が読むより、青年期、中年期の人向けである。本書では、45才から60才に資産を取り崩し始めることを述べている。そう思うと稼ぐ以上に使うことを考えねばならない。FIREを目指して節約投資をしている人または推奨している人とは異なる考えで、やはりバランス感覚が必要なのだろう。

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第53夜「次郎物語第五部」下村湖人

友愛塾と言論統制、道江への思い等々。下村湖人氏自身は第六部、第七部まで書きたい意向を持っていたが、かなわず次郎物語最終部となった。読んでいて比較的初期の松下政経塾時代を思い出した。当時の塾頭は京都大学の教育学部の出であり、今思うと次郎物語の影響を大きく受けていると感じた。

中学時代に読んでいたにもかかわらず、松下政経塾が次郎物語の世界に近いことを当時感じていなかったことが少々悔やまれる。また、五部で最後になると思うとなんとも悲しい。本当に素敵な本で下村湖人先生に感謝したい。

★★★★★

カテゴリー: 未分類 | コメントする

第52夜「次郎物語第四部」下村湖人

朝倉先生の退任と次郎の諭旨退学をめぐる20日程度の騒動。下村湖人氏は、戦争に向かっていく時代にあたって、どうすればそれを避けることができるのかを戦後に次郎物語を書いて今後の世の戒めにしたかったのではないかと思う。朝倉先生の白鳥会は、僕の若かりし時代の松下政経塾の小島直記先生の「伝記に学ぶ人物研究」を彷彿とさせた。小島先生からも配属将校に対する不満と言論弾圧に対する抵抗の話を聴いた。また、小島先生から将来の日本に対して、僕たちへの期待を感じるが、実際は先輩後輩を含め皆うまくいってない。つまらない政治家にもたくさんなっていると思う。非常に残念である。だめな政治家にならなかったことが皮肉なことにむしろ僕の誇りでもある。さて、次郎物語も次の5部で終わり。未完の作になっている。

★★★★★

 

カテゴリー: 未分類 | コメントする